2025.03.19
トミカとデジタルアーカイブ ~ 変わったこと、変わらないこと。15年前の自筆コラムを読んで。
#私的考察「以前の記事で、お好きと知りまして」と書かれたお手紙と一緒に、とある方からミニカーをいただきました。確かに我が家は一時期、家族みんなで『トミカ』の収集に凝ったことがあります。今もデスクに選りすぐりの2台を飾っているほど好きなのでとてもうれしくて、いただいた1台を加えてしばし鑑賞。くださった方、本当にありがとうございます。
ここで、奇妙なことがひとつ。と言うのも、それを誰かに話したことがほとんどないのです。しかも、この方は弊社のホームページでご覧になったようで。私がミニカーの記事を書いた? 会社のサイトに? 何とも不思議だったのですが、はたと思い当たることが。
https://www.waseda.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/Story_14.pdf
あった、ありました。2010年5月発行の『MAPPS Story』第14回。この頃、弊社が独自に発行していたいくつかの不定期連載シリーズの中の1本です。
弊社では今もさまざまな自社制作物を紙とPDFでお届けしているのですが、こちらは当時に対で発行していた真面目な『MAPPS Seminar』に対し、やや個人色の強い雑記帳的なコラム。そうか、ここならプライベートの話題を出していてもおかしくありません。自分自身も忘れていた記事を覚えていてくださったとは…。品物だけでも最高のプレゼントですが、そのお気持ちに触れるとさらに輝いて見えて、思わず目頭が熱くなりました。
少し落ち着いて、コラムの改めて発行日を見ました。この文章を書いてから、もう15年も経つのですね。2010年と言えば、1月に初代iPadが発表されるなど、現在へとつながる世界的なデジタルシフトが加速していた時代。私個人は異業種から転身して5年ほど経過した頃で、弊社はこの半年後に現在の主力サービスである博物館クラウド〈I.B.MUSEUM SaaS〉をリリースすることになります。
この当時は、システム導入を目指す博物館にとって、そして弊社にとっても大変な時代でした。収蔵品管理システムを導入しようとするとウン百万円かそれ以上のコストがかかるのが一般的で、中小規模の博物館は「予算の壁」に跳ね返され続けていたのです。どんなに分厚い資料を準備しても申請が通る気がしないのですから、全国の学芸員の皆様と一緒に立ち尽くし、頭を抱える毎日。そんな日々の中で、「それでも未来を目指しましょう」と励ますつもりで作っていたのが、上記コラムをはじめとする自社コンテンツでした。
ちなみに、この2年ほど前から開発に着手していた博物館クラウドも、予算を捻出できない中小館にデジタル化への器を提供するという使命感のもとに企画したサービスです。遅かれ早かれ対応を迫られることになるのは確実で、是が非でも「容易に導入できるシステム」が必要だったのです。それは、博物館専業のシステム開発会社としての責任であると同時に、零細企業の弊社が生き残る道でもありました。
博物館クラウドのサービス開始以降、周りの風景は大きく変化していきました。まさしく転換期のさなかに書いた15年前の原稿を読んでみると、当時の景気を嘆きつつ、この時期に40周年を迎えたトミカの販売力に思いを巡らせています。ブランドの戦略のひとつとして出版されている(今も続いているようですね)子ども向けの書籍について言及し、「知的欲求を刺激して購買意欲を喚起しているのだろう」と考察。その上で「博物館の来館促進でも参考になるはず」とつなげていますが、実際、これは現在でもデジタルアーカイブが担う重要な役目のひとつですね。
そもそも、今ならすんなり通じるデジタルアーカイブという概念も、あの頃はゼロからご説明するケースが大半でした。まさに隔世の感がある一方、よくよく考えてみると、時代がどれだけ様変わりしてもシステム導入の目的や役割にはほとんど変化がないことに気付きます。あれから15年、ふらつきよろめき転げまわるほどに曲がりくねったはずのこの道が、ふと後ろを振り返ると、意外なことに気持ちがいいほど真っ直ぐに延びていた。そんな感覚に包まれます。
という具合に、いろいろなことを思い起こさせてくれたトミカですが、写真中央の可愛らしくもリアルな郵便配達車が今回のいただきもの。今後、私のデスクには常時3台が駐車することになります。右はその昔に憧れたクルマで、左は当時の愛車です。近場のレストランへ、遠くの旅先へ。家族にたくさんの想い出を作ってくれたワインレッドのホンダ・オデッセイも、幼かった子どもたちが社会人へと成長した今は手放していて、もう手元にはありません。
あの頃は、集めたトミカを床一面に敷き詰めて遊んだっけ。郵便配達車をいただいた日の夜、息子に報告して一緒に昔を懐かしみました。仕事で、私生活で、変わったことと変わらないこと。デスクに並べたお気に入りの3台のレイアウトを決めて、仕事に戻ります。