代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2021.04.14

地方自治体、小規模博物館を支える「助っ人」のチカラ

#私的考察

あの緊急事態宣言から、はや1年。新型コロナウイルスの感染拡大に話題をさらわれた格好ですが、心配事は多々あります。そのひとつが、世界で頻発中の異常気象。今年の桜は2度目の緊急事態宣言の解除とともに迎えることになりましたが、報道によれば「観測史上でも有数の早さ」の開花だったそうで。ビッグイベントを控えるこの夏の気温上昇が気になるところです。

 

若者が集まる東川町のグッズ。木工製品が「推し」です。

こうした気候変動が世界各地の社会・経済にさまざまな影響を及ぼしているのはご存じの通り。そんな中で、先日、夜更けのドキュメンタリー番組をたまたま目にしたところ、そのまま身を乗り出して観ることになりました。明治10年から140年以上にわたって続いてきた岐阜県中津川市の老舗酒蔵が、新天地に移転したというのです。

地場産業の担い手が地元から拠点を移すというのは、よほどの理由があるはず。実際、昨今の気候変動で温度管理に苦しみ続け、いまや廃業の危機に晒されていたのだとか。そこに、地域おこしに取り組む北海道のとある町が、大雪山の伏流水を活用する酒蔵の建設を計画中との情報を聞きつけ、「ならば」と手を挙げたのだそうです。

その町というのが、道のほぼ中央、旭川郊外に位置する「写真の町」こと東川町。実は、私も何度か出張でお邪魔しており、ごく短時間の滞在ながら深く印象に残った見聞を簡単な訪問記にまとめたことがあります。こちらに関しては以下で公開しておりますので、もしもご興味があればご一読ください。

若者たちは、なぜ「移り住む価値あり」と思うのか ~北海道東川町訪問記

東川町の文化施設の中心地「せんとぴゅあ」

日本のほとんどの地方都市が人口減少や過疎の問題に悩む時代ですが、ここ東川町は何年も連続して人口が増加中。しかも、何と若者の移住が多いそうで、訪問した際にも学校だった建物を交流施設に模様替えしたり、町の象徴である木製のチェア(謂れにつきましては訪問記をご参照ください)を活用したオシャレなショップを開設したり…と、豊かで温かな街角の風景に感心させられたものです。

この時、確かに若者たちの姿を見かけましたが、しばし交流を温めることとなった数人は、町の「地域おこし協力隊」に参加する方々でした。総務省が主導するこのプロジェクトは、人口減少に悩む地域などに都市部からの移住を促し、地元ブランドや名産品の開発や一次産業への従事、住民支援などでの応援を仰ぐもの。各自治体の委嘱を受けた「隊員」は概ね1〜3年ほどの活動任期がありますが、もちろんその後の定住・定着も期待されています。

彼らは、3年間にわたって、その土地でさまざまな経験を積むのでしょう。当然、新しい出会いもあるはずですが、任期満了後には改めて職探しが必要となるかもしれません。そこにはチャンスもある一方、常にリスクと背中合わせ。制度的にもさまざまな課題が指摘されています。そんな中で見知らぬ土地に飛び込み、地道な仕事に従事するのは、利他の精神があってこそ。私がお会いした若者たちも一様に礼儀正しく、意欲と活力にあふれる表情が忘れられません。

 

さて、地域おこし協力隊に限らず、こうした「外部の力」は、ミュージアムでもよく活用されています。慢性的な人員不足にあえぎ、正規職員は展覧会や来館者サービスに忙殺されており、資料整理や目録づくりにまで手が回らない…というケースのいかに多いことか。重要度が低いわけではありませんが、時間的な優先度が低いため後回しとなりがちなのですね。こうした小規模館が積年の課題を乗り切るのは、きまって臨時雇用で駆けつけたスタッフの貢献が大きかったりするわけです。

まさに「助っ人」である館外の方々は、時には驚くような大活躍を見せてくれることがあります。たとえば、別の地域からとある館に転任した若い学芸員が地域文化資源のデジタルアーカイブを公開した際、記述内容や表現の誤りを指摘してくれたのは、長く地元を見守ってきたご高齢の住民でした。その方からご覧になれば、学芸員は「部外者」と映っても不思議はありません。しかし、「頑張ってくれる若者を助けなければ」という姿勢で、地域の歴史や伝承について、細かく丁寧に教えてくれたのだそうです。

助っ人同士(?)がバッテリーを組んだ甲斐あって、公開データはいまも進化中。地域からも大好評のデジタルアーカイブへと成長しています。

 

若者と高齢者、地元民と転入組。それぞれの視点と知識、技術と志を持ち寄れば、大きな成果を得ることもある。気候変動だけでなく世界中で「人のトラブル」も頻発する昨今ですが、よい出会いがあれば、まだまだできることがあるのですね。そんなわけで、ドキュメンタリー番組で東川町と束の間の再開を終えた私は、さっそくPCを立ち上げて酒蔵のサイトチェックに勤しむのでした。