代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2024.02.05

地域社会への溶け込み方は、個人経営の喫茶店にヒントあり?

#私的考察

出張で全国を駆け回っていると、各地に観光客が戻っていることを実感します。実際に、訪日外国人旅行者数は急速に伸びており、今やコロナ禍の前を上回る勢いだとか。インバウンド需要のV字回復で、ミュージアムも嬉しい悲鳴とともに対応に追われそうです。

たとえば先日、東北出張でお邪魔したもりおか歴史文化館のWebの音声ガイドは日本語を含めて5か国語に対応しているのですが、このうち利用が最も活発なのは、実は英語版なのだとか。盛岡と言えば、米ニューヨークタイムズが昨年発表した「2023年に行くべき52カ所」の中で、ロンドンに次いで世界で2番目に記されたことが話題になりました(No.19には福岡市の名も)。先日はその2024年版が発表されて、日本からは山口市が3番目に紹介されていましたね。

この出張の帰路でたまたま知ったのですが、盛岡と山口を推薦したのは作家・写真家のクレイグ・モドさん。下のURLには、現在は鎌倉在住というご本人へのインタビュー記事が掲載されているのですが、実に読みごたえがありました。

https://suumo.jp/journal/2024/01/25/200215/

日本に住んで23年になるモドさんは、東海道や中山道を徒歩で踏破するなど、日本中を歩き回ることをライフワークとしておられるそうです。記事を読むと、私たち日本人よりも「日本の街」に対する深い観察眼と洞察力をお持ちであることが伝わってきますね。多くの外国人観光客と同様に東京を「奇跡のように安全な街」と評価する一方で、地方都市の現実についても目を逸らすことなくジャーナリスト的な視点で厳しく指摘。限界集落が増加し、街道沿いにはチェーン店やパチンコ店が連なって、シャッター街では取り残されるように個人経営の喫茶店や理髪店・美容室が残るのみ。そんな風景の中で、彼は新たな日本の魅力を見出します。

かつては多くの商店でにぎわった商店街で、なぜ喫茶店が残るのか。モドさんは、そこに地域コミュニティのハブとしての役割を見出します。高齢化が進むほど、孤独な人が増える。でも、地域に喫茶店さえあれば毎朝モーニングを食べて仲間とお喋りできる、年月を重ねてもそこにいるマスターや奥様に挨拶できる…。日本の中核市は「自分の好きなことがやれるくらいの町のリソースがありつつ、それでいて疲れない」と評しておられますが、その中でも指折りの都市として選出された盛岡には、個人的にも確かに居心地のよさを感じます。社会インフラがしっかり整い、地元自慢のモノづくり企業や大学が意外な活気を醸成しつつ、それでいて地元の方々の生活感が適度に溶け合ってリラックスできるんですよね。

さて、この記事の中で特に印象に残ったのは、「コミュニティのハブ」という部分です。喫茶店や理髪店・美容院の役割のくだりを読んだ瞬間、「ミュージアムも担えるのでは?」と感じました。と言うのも、盛岡訪問の前日に、まさに地域の交流にぴったりの場所を見たばかりだったからです。

その日にお邪魔したのは八戸市美術館でした。館内に入った途端、目の前に「ジャイアントルーム」という広大な空間が現れます。そこは、コミュニケーションからラーニングまで広く活用できるほか、来館者が思い思いに座って自由に寛げるスペースも備えた多目的室なのです。ここまでの広さでなくとも、ミュージアムにはひと息つける場所が多いですし、カフェを併設する館も少なくありません。清潔で落ち着いた空間を、毎日の中で使えるものなら使いたい…と考える方は意外に多いのではないでしょうか。

街角の喫茶店のように気軽な感覚で出かけられる場所として、ミュージアムが今よりもっと地域社会に溶け込めば…と、例によってあれこれ思い描きながらの帰り道。地域のコミュニティスペースとしての認知度が高まり、日常的に利用する地元の方々が増えれば、館の常設展示に詳しくなって遠来の来館者を案内してくれたりして。初めて訪れた喫茶店で隣り合うと、おすすめメニューを教えてくれる気さくな常連さんのように。