2021.08.11
館の活動を、オンラインでひもとける記録へ
#私的考察50代も半ばへ差し掛かり、「この俳優さんは…あれ? 何て名前だっけ?」「中学生くらいの頃に学園ドラマでよく見かけた、ほら、あの人…」とド忘れする自分に戸惑う場面が増えてきました。そんな時はスマホで「80年代 学園ドラマ 主役」と入力し、ズラッと出てきた候補から名前を発見。何とも便利な時代になったものですね。
曖昧な単語からも「この人?」と絞り込んでくれるのは、オフィシャルな発表やメディアの記事はもちろん、ファンのブログから各種情報サイトの作品データベースまで、多種多様な切り口の情報を提供してくれる人々がいるからこそ。それらを丸ごと蓄積してくれるインターネットの存在には感謝してもし切れませんが、その分、最近よく耳にする「ネットに出ていなければ、それはないものとされる」という言説も、少し気になるところです。図書館などで丁寧に時間をかけて調べれば見つかるかもしれないことも、ひとことふたこと検索してうまくヒットしなければ、それで終わり。便利な半面、恐ろしくもありますよね。
博物館情報もまた然り…ということで、最近は収蔵品データのネット公開も進んできましたが、もうひとつ、館にとっては重要な情報があります。それは、展覧会の開催情報です。
たとえば、以前に展覧会で見て感銘を受けた展示について調べたいと思ったら、まずは記憶を手繰りながら検索バーに思いつく単語を並べます。有名俳優の情報のように簡単にたどり着けないのは仕方がないとしても、ミュージアム系の情報サイトなどでどうにか把握できるのは名称や会期くらいで、出品リストまでゲットできることはほぼ稀。もちろん、基本的なデータが公開されているだけでも本当に有り難いことなのですが、現代の情報社会を考えると「もう少し知りたいな」と思うのも自然な欲求ですよね。
弊社には、全国のミュージアムから日常的にご質問やご相談が舞い込みます。多くは収蔵品データベースの公開についてなのですが、最近は学芸員ではなく、広報やホームページ運営のご担当も増えてきました。展覧会の情報発信についての話題が出る場合は、そのほとんどは、当然ながら「次回」あるいは「次回以降」の告知についてのお話。ふだんのご多忙ぶりを考えれば無理もないことですが、収蔵品の詳細や今後のスケジュールなどに比べると、10年前の開催データの優先順位はかなり下位にならざるを得ません。
しかし、昨年来のコロナ禍による外出自粛期間にバズッた【おうちミュージアム】のように、何がどう拡散するか分からない、サプライズ頻発のネット社会。情報がネットのどこかに登録されてさえいれば、ひょんなことからチャンスが訪れることも珍しくはありません。過去の展覧会情報や出品リストのアーカイブをホームページ上に公開しておけば、上記のように過去の展覧会を思い出した人が検索を通じてやってくるかも。そのままWEBサイトをぐるりと一周し、興味の視線を現在開催中の展覧会情報へと向ける方もいることでしょう。当然、博物館周辺の話題を扱う情報サイトなどもさらに活気づくはずですし、展覧会企画時の下調べや資料・作品の貸し借りなどミュージアム同士の情報共有にも役立ちそうです。
それ以上に、開催までのミュージアムの苦労を知る身としては、資料情報とともに展覧会のアーカイブもデータベースに蓄積したいという気持ちが高まります。「自慢の収蔵品」とともに「展覧会の足跡」についての情報も揃えば、「館」としての実像もより立体的に見えてくるはず。弊社の博物館クラウドは資料の展示や貸出に関する履歴の管理機能を備えていますが、周辺情報の蓄積の対象を過去へと広げ、昔の年報などを手間なく「ネットでひもとける活動記録」へと転用できる機能を提供できないか…。この分野でも先駆者として名高いMoMA(ニューヨーク近代美術館)の『Exibition history』のページなどを参考に、社内でも少しずつ議論を始めています。
技術的に乗り越えなければならない課題が多い上に、館側の学芸業務の多忙さを考えても、今は夢物語に過ぎません。しかし、将来、館内のマンパワーに余力ができてトライしてみたいとお考えの時、すぐに準備を整えられるように。議論を重ねるほどに、博物館クラウドにはまだまだ「すべきこと」があると自覚せずにはいられません。
参考:https://www.moma.org/calendar/exhibitions/history/