代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2021.09.16

「均衡ある博物館の発展」を目指して。

#私的考察

時折り耳にする路線バスやローカル線の廃線のニュース。災害や事故などで運休になっても別の移動手段を見つけやすい東京都内とは違い、地方にお住まいの方々にとってはまさに「生活の足」となるだけに、心配が募ります。と言うのも、このコロナ禍の直前までは年間でのべ200館を越える数のミュージアムを駆け回っておりましたので、全都道府県に「あの電車で乗り合わせたお年寄りは大丈夫かな」「あの駅で賑やかに降りていった学生たちは通学で困らないかな」と思い出すシーンがあるのです。もちろん、民間企業である以上は採算という壁がありますし、運営会社も断腸の思いでしょう。難しいところです。

銀行員時代の出向先で、旧自治省から来られていた方々から「均衡ある国土の発展」という考え方を学んだことがあります。大まかに言えば、経済活動が活発な都市部で得た税収=富の一部を地方に分配しながら経済格差を埋めていこう…という思想です。ほとんど渡る人がいないように見える橋、通行する車両もないように感じる道でも、それがなければ病院に行けない方々がいることを思えば、国全体で地方を支えることの大切さが理解できますよね。都市の規模などによって極端な差があってはいけないとする姿勢は、医療機関や教育機関にも当てはまるでしょう。社会制度にしても、法整備にしても、最も厳しいお立場にある方の目線を意識しなければ、さらなる格差拡大の要因にもなりかねません。

こうした課題は、地方の小規模なミュージアムを訪ねるたびに、リアルに実感します。つい先日も、とある館で「一気に3名も減って…」というお悩みをうかがったばかり。100人が97人になるのではなく、事務方も含めて10名前後の組織で突如として3人もいなくなるのですから、業務に影響が出ないわけがありません。もちろん、決定した自治体にも事情がおありのことですから、一概に是非を論じることもできず。私のような部外者にできることは何もなく、職員の皆様と一緒に歯がゆい思いを噛みしめつつ、少しでもご負担を軽くするための対策を考えることしかできませんでした。

こうした事態に直面するたびに己の無力さを痛感しますが、長い目で見れば、私たちにもできることがあります。システム開発会社としての業務効率化への貢献は当然として、並行して今後さらに重視していきたいのが、館の存在意義・存在価値を広く発信するためのサポートです。

博物館クラウド〈I.B.MUSEUM SaaS〉は、先ごろ、ユーザ館が400館に到達しました。全国の博物館の総数を考えれば、おかげさまで非常に大きな数字となります。大小さまざまな規模のミュージアムにご利用いただいておりますが、もともとは「大きな予算を要するシステムの仕事を安価に実現できる環境を作ること」を目的に開発したサービス。大規模、中規模の館はもちろん、「予算も人も足りない」という館にもお使いいただけるよう設計したツールです。利用料では「富の再分配」的な傾斜はつけず、すべてのご利用館が同じ金額を「割り勘」にするクラウドシステムですから少し意味合いが違いますが、「規模の大小を問わず同じツールを使えるサービス」ですので、目指す先としては「均衡あるミュージアムの発展」といったところでしょうか。

すべての館が無理をしなくても手が届く金額でなければ意味がありませんし、最も厳しいお立場の館の目線で見て運用の負担が増えるようではダメ。もっと身近に、もっと手軽に、もっと便利に…。サービスの発表から10年にわたり機能改善を重ねてきた現在も、当時と同じ課題で頭を悩ませては社内で議論を交わす毎日です。