2024.06.27
デジタルアーカイブを「展覧会限定」で使う ~ 神戸市立博物館 特別展「Colorful JAPAN―幕末・明治手彩色写真への旅」
皆様ご存じの通り、昨年の博物館法改正でデジタルアーカイブが正式に博物館の業務の一部として位置付けられました。一般にデジタルアーカイブとは、長期保存や一般公開を目的に文書や文化資源の情報をデジタル化することを指します。ところが、神戸市立博物館の特別展「Colorful JAPAN―幕末・明治手彩色写真への旅」と連動するデジタルアーカイブは、何とこの展覧会のみの限定公開。非常に珍しい取り組みですが、実際に体験してみると「その手があったか!」と目から鱗が落ちるようなナイスアイデアでした。きっと広くご参考としていただける事例ですので、さっそくご紹介いたします。
幕末・明治の手彩色写真
モノクロの写真に色を付けた手彩色写真。こうした展覧会だけでなく、最近はインターネットでもよく見かけますね。幕末や明治の活気ある町並みや穏やかな田舎の風景、当時の暮らしぶりが伝わってくる人々の佇まいに心を奪われた方も少なくないのでは。今回の展覧会は、改めて150年前の日本に魅了される鑑賞体験となりました。
手彩色写真は、かつては土産物として、あるいは輸出品として外国人の目に触れることが多かったそうです。時の浪漫をいっそう掻き立てるような独特の質感が特徴ですが、今の私たちの目で見ると、これがまた優れた演出となっているわけですね。
「もっと見たい」期待に応えて
インターネットでも見ることはできるものの、展覧会の魅力は何と言っても「実物」の持つ引力です。芝増上寺や富士山、京都や奈良の写真で旅情に浸ったり、侍や籠の写真では歴史小説のワンシーンを思い出したり。また、女性たちの写真は、手彩色で頬を少し赤く染めているため生き生きと見えます。個人的には、神戸の近くで生まれ育った身として、元町の風景には特に惹かれました。行き交う人々で活気に溢れていて、いますぐ出かけてみたいと思うほど魅力的な町に見えます。
場内には、当時のカメラや絵の具なども展示。また、この時代は立派な蒔絵で彩られた写真アルバムも見どころです。実物も展示されていましたが、写真が貼られたページが開かれた状態で置かれていましたので、当然「ほかにはどんな写真が見られるのだろう」と気になるところ。そんな「もっと見たい」という期待に応えてくれるのが、今回ご紹介する展覧会限定デジタルアーカイブなのです。
デジタルアーカイブの仕組み
デジタルアーカイブには、掲出されているQRコードからアクセスできます。実物をたっぷりと堪能し、館を出たところでスマートフォンを開いて閲覧してみました。
全部で9点のアルバムからひとつを選んで開くと、中に収録されている写真がズラリ。この一覧画面が実に壮観で、ここから写真を選ぶと上部のメインエリアに置かれます。拡大ボタンで大きな画像を表示でき、ピンチアウトの操作でさらにズームインできますので、見たい部分をじっくり見ることができるのがいいですね。
風景写真の背景、室内の設えや小物、人物写真の表情や着物。気になる部分があれば細部まで確認できるのは、デジタル鑑賞のよいところ。ホテルに着いてからも、展覧会の感動に包まれながらリラックスすることができました。
展覧会のみの限定公開の効果は
この特別展を鑑賞したのは夕方だったのですが、翌日も神戸に留まるスケジュール。そこで、朝一番で改めてお邪魔して、学芸課係長の小林さやかさん、学芸員の水嶋彩乃さんにお時間をお借りすることができました。
展覧会の来場者の方々の反応などをうかがうと、今回の試みの効果がはっきりと出ていました。と言うのも、冊子ものを開いた状態での展示がある展覧会では、決まって「ほかのページも見たかった」という声が多数寄せられるところ、今回の展覧会ではそうした声がほぼ皆無なのだとか。つまり、展覧会限定デジタルアーカイブが「もっと見たい」というニーズにしっかり応えている証であるわけですね。
「残す」「継ぐ」役割がクローズアップされがちなデジタルアーカイブですが、うまく活用すれば、単に公開するだけでなく展覧会をサポートして来館者の満足度も高めることができる。これは、多くの館でご参考になる事例なのではないでしょうか。今回は写真アルバムのほかのページを見たいというニーズへの対応でしたが、「もっとご覧になりたい方はこちらにどうぞ」という展示スタイルが有効なシーンは、ほかにもきっとあるはずです。
アイデア次第で、まだまだ広がるデジタルアーカイブの可能性。展示の素晴らしさに加えて、実に勉強になる展覧会体験でした。
神戸市立博物館
https://www.kobecitymuseum.jp/
Colorful JAPAN―幕末・明治手彩色写真への旅
https://www.kobecitymuseum.jp/exhibition/detail?exhibition=378