ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

水戸・弘道館は、江戸時代の水戸藩の藩校として建てられた。現存する建物は当時の様子を今に伝え、訪れる者を特別な境地に誘う。創建以来165年、館が示してきた創設以来の理念は、地域の風土的環境や人々の良識に密接に結び付いている。
いま、ここでは、市民たちが「デジタル・アーカイブ」化の取り組みを始めている。

現在の弘道館は、建物が国の重要文化財に指定されている「文化財」だが、同時に自ら書籍・拓本・絵画等の収蔵資料を持つ「資料館」という性格を持ち、さらに行政上は近接の偕楽園公園と同様に「公園施設」とされている。現存する建物の姿は変わらないが、藩校として教育の場であったり、廃藩置県後の県庁舎であったり、近代学校制度下の学校施設となったりするなど、時代の流れの中でこれまで幾度も在り方を変えてきた。その移り変わりは、弘道館自体の歴史であると同時に、その時々の役割を与えながら存続を支えてきた地域市民の活動の歴史でもある。

デジタル・アーカイブ化の取り組みは、こうした弘道館の歩みをデジタル技術によって保存し、地域でより有益に活用しようというものだ。市民たちは、これまでにも有志が無償で館のガイドを務めるなど、自発的に館とのつながりを保ってきた。現在の姿を眺めることから自然に感じられる「歴史の空気」を、多くの人とより鮮やかに共有するために、ボランティア活動を通じてさまざまな切り口から館を語り継いできたのだ。

 

こうした活動の中で蓄積されてきた「経験」「知識」そのものを含めてアーカイブし、館の収蔵資料情報や学術的な歴史知識と組み合わせ、より多角的に「弘道館」を表現するデータベースを作る。それは、単なる資料以上の価値を持つ。学校教育や福祉の現場、生涯学習の機会などの場で、市民が蓄積した「ナレッジ」そのものが情報に有機性を与えることになり、ひいては地域に親しまれてきた館の存在価値が、その理由や経緯、活用方法ごと地域の暮らしの中へと還されることになるからだ。

地域の財産を地域に還元するために、市民が主役となって動き出したデジタル・アーカイブ計画。弘道館の、そして私たちの、過去と現在の文化の営みを未来へとつなげる、有意義な試みである。

Museology-Lab.
北岡タマ子

 
Museology-Lab.
今回執筆をお願いした北岡様が所属するMuseology-Lab.とは、博物館学を学ぶ若手研究者の自主的な研究会です。
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