ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

教育現場でICT活用しようという試みは、いまや全国的な流れ。新潟県の柏崎市では、現在、「柏崎市WEBミュージアム」構築プロジェクトを進行中。小学生向けの郷土学習教材の電子化と、市内の文化財や博物館資料のデータベース化を軸とする電子教材の開発プロジェクトで、来年3月の完成を予定しています。
それに先駆けて、先ごろ、試験的な授業を実施。結果は上々で、博物館資料の活用先の可能性を改めて示す事例となりました。そこで、今回はこのテスト実施についてレポートします。

「一人1台タブレット」というこの時代、教室で活用されるのは必然。特に、郷土の歴史や文化を学ぶには、博物館資料とそのデータベースは子どもたちの学びのお供になれるはず。柏崎市のWEBミュージアム構築プロジェクトは、これを実証する先進的な試みです。

博物館と学校が連携すれば、子どもたちの知的好奇心を大きく育むことができるはず。ずっと昔から指摘されてきたことですし、全国のミュージアムを巡回しながら「博物館力」を日々肌で感じている弊社も、それは確信しています。しかし、これを実現するには、さまざまな課題もありました。
互いに連携したくても、まずスケジュールの調整からして難題です。引率時の安全確保では、先生方、博物館職員の皆様ともに負担が大きいのも事実。これらの問題などに阻まれて、残念ながら、なかなか簡単には進まないのが現実でした。
その点、教室内で電子教材を使うという方法なら、そうした問題の大半がクリアされることになります。資料データとそのデータベース、そしてアクセス環境さえ整えば、より効率的な郷土学習が実現できることは間違いありません。
これまで思い描いていた「デジタルデータによる博物館と学校の連携」の、その効果やいかに。このたびのテスト実施の様子を目の当たりにできる貴重な機会に恵まれましたので、詳しくご報告しましょう。

 

■ 電子教材の概要

授業には、現在開発中の「柏崎市WEBミュージアム」が使われました。このコンテンツは、これまで副教材として使われてきた馴染みのある紙の冊子を電子化したもの、博物館が所蔵する地元の文化資料のデータベース、そして新たに作成した特集記事を内包。データベース部分には、弊社のI.B.MUSEUM SaaSをご活用いただいております。

これらの教材は、「WEBミュージアム」のトップページに統合された形となっています。重要なキーワード、人物名などがリンクになっていて、タブレットの画面にタッチするとデータベースの該当部分が表示されます。また、特集コーナーでは、読み進めていくと時おりクイズが登場するなど、飽きさせない工夫も盛り込まれています。

 

POINT
タップしてみたくなるカラー、デザイン、レイアウトで好奇心をサポート

子どもたちが使うツールは、まず、見た目が重要。とっつきにくさを排除したカラフルでポップな画面デザインは、子どもたちの知的好奇心を刺激するのにぴったり。データベースでは、地域学習の授業に使いやすいよう、「校区」からも検索できる点もポイントです。
ご注目いただきたいのは、「私たちの柏崎」がテーマごとに色分けがされていること。実は、これがあとで大きな効果を発揮するのです。

 

■ 電子教材を使った授業の様子

当日の授業のテーマは、地元の農業について。生産高と作業時間の推移について統計から確認し、数字が変化した理由(機械化など)とともに相関関係をみんなで考えます。子どもたちは、みんな熱心に考えています。
そのあと、電子教材で農業についてのページを開くと、地元の農業、特に治水に貢献した人物が紹介されています。それをタッチするとデータベースの人物の詳しい情報へとジャンプ。そこからさらに、その人物が関わった堰の情報へ。その画像を拡大すると、たくさんの人が関わっていたことが絵でわかる…といった具合に、子どもたちは器用に使いこなします。
当時の人々の苦労した様子を画像で見ることができ、子どもたちは興味津々。仮に、議論が白熱して周辺の話題に飛んだり、その場に資料がない質問が出たりしても、先生はすぐに検索できるので安心ですね。

 

●当日のまとめと今後に向けて

実験授業を終えて、担当の先生もほっと一息。手ごたえや感想など、いろいろとお話を伺う時間をお借りしました。
先生によれば、タブレットを使った地域学習は、やはり子どもも興味を持ちやすいようです。紙の資料とは異なり画像を大きくして見られるなど、よりアクティブな授業も可能。また、キーボードが苦手な子もタッチモニタなら扱いやすいので、学習意欲を保ちやすいようです。
また、オーソドックスな方法ではありますが、クイズ形式はとても好評でした。伝統芸能の動画などは、地元の方でも見たことがないような貴重な資料もあり、WEBミュージアムとして学校以外での公開も検討できるかもしれません。さて、このように便利なタブレット授業ですが、慣れてくるにしたがって、「授業と関係なく、どんどん勝手に進んでしまうかもしれない」という心配もあります。実は、これは事前に対策を講じてありました。それが、前ページで紹介した「色分け」なのです。
今回のインターフェイスでは「単元ごとにキーカラーを変える」というスタイルをとっています。これなら、先生が少し離れたところから見ても、その子がどのページを見ているかが「色でわかる」…という仕掛け。先生のお話によると、これはなかなか効果を発揮したようです。
データベースを使った「調べる学習」は、6年生になると「地元をPRする」という授業があるそうです。また、先生方も授業の準備に使えるなど、活用の幅はまだまだ広がる、そんな感触を得ることができました。

この日、何よりも印象に残ったのは、先生の周到な準備でした。授業のシナリオがとてもよく練られていて、「学校の先生は大変だ」という伝聞を改めて目の当たりにした思いです。

今回は昔の農業について学んでいましたが、博物館に行けば、もしかしたら当時の農機具などが保存されているかもしれません。データベースに何が格納されているか、実物資料にどんなものがあるかなどは、学芸員が知り尽くしています。どちらもご多忙ですが、先生と学芸員が二人三脚で授業の準備に臨むことができたら、博物館資料の価値はもっと深まるはず。ぜひ仕組みづくりを考えたいものです。ICTを用いた新しい授業スタイル、地域学習の効果アップ、文化資源の教育への活用。いずれの視点からも、今回の柏崎市の取り組みには拍手を送りたい、そんな授業見学でした。