No.12
2007.10.28
リサーチャー、今度はパリへ!(後) Musee du quai Branly,Paris
パリで一番新しいミュージアム『ケ・ブランリ美術館』の訪問記、続いては後編のご紹介。いよいよ関内に足を踏み入れて、現場の様子をレポートします。エントランスを抜けて、リサーチャーが見たものは? さすがは国の威信を賭けた(?)ミュージアム、細部まで感心させられっぱなしでした!
ケ・ブランリ美術館レポート 後編
美術館のエントランスを通過した来館者は、白く延々と続くS字状のスロープを通って、展示室へと導かれます。そのスロープ上には、資料映像のダイジェスト版――さまざまな地域、民族の舞踊やお祭り、儀式の様子を収めたドキュメンタリー映像群――が、まるで映画の予告編のようにプロジェクタで映し出される演出が。展示室への期待がいやがおうにも高まります。
白いスロープはやがて真っ暗なトンネルへとつながり、トンネルを抜けるとそこは……といった趣で、ようやく展示室という別世界が開けるのです。この長い道のりは、パリという近代都市から、収蔵品の故郷である世界へのイニシエーションをイメージしたものかもしれません。
薄暗い照明のもと、広大なスペースにガラスの展示ケースが点在し、その中でスポットライトを浴びた作品が美しいフォルムを浮かび上がらせています。異なる地域の多様な収蔵品が、薄暗がりのなかにぽつりぽつりと浮かぶ様子を見渡していると、不思議な森にさまよいこんだかのような印象すら受けます。森といえば、展示スペース北側のガラス壁には草木のプリントが一面に施されていて、このガラス壁から差し込むやさしい緑色の光が、木漏れ日のような効果をあげていました。
美術館の無機的な展示室と言うよりは、作品と展示室が一体となってひとつの演出空間を作りあげる、ある意味でアミューズメントパークのようなコンセプトで展示がなされているわけですが、収蔵品解説のキャプションも、鑑賞の邪魔にならないよう工夫された位置につけられています。しかし、収蔵品がもつ美的な側面ばかりに光を当てて、その資料の背景的な情報の紹介をなおざりにしているというわけではありません。
オーディオガイドが用意されているのはもちろんのこと、展示スペース全体で150台ものタッチパネルが設置されていて、来館者が興味に応じてさまざまな情報を自由に引き出せるようになっています。文字や画像情報だけでなく、収蔵品とその文化的背景をつなぐ映像資料が多数収められており、収蔵品が実際に祭祀儀礼で使われている様子などを確かめることができます。パネル自体は腰をおろせるように窪みもつけられている低い仕切り壁の壁面に埋め込まれているので、座ってゆっくりと収蔵品への知識を深めることができるのです。
これらは、美的な側面で多くの来館者の目を惹きつけ、文化史的な側面まで誘導する上での巧みな工夫と言えるのではないでしょうか。ぜひ参考にしたいものです。
野心的な理念を掲げ、冒険的ともいえる試みとして開設されたケ・ブランリ美術館。当初の目標である年間120万人を50万人も上回る入場者数をマークしたとのことで、少なくとも数字的には大成功を収めているようです。常設展示されているのは3500点にすぎませんが、全収蔵品は30万点にも及ぶそうで、この膨大なコレクションを活かした特別展が年間10展ほどのペースで企画されているそうです。
そのポテンシャルを活かした展覧会は、これからも世界へと発信され続けることでしょう。今後、ケ・ブランリ美術館は、「異なるもの」たちの間にどんな美術史的・文化史的対話を提案してくれるのか……。完成したケ・ブランリの庭園と建物の間にもたらされるはずの調和に想いを馳せつつ、美術館を後にしました。
【ケ・ブランリ美術館】
【ミュージアム情報】
●所在地
37, quai Branly – portail Debilly 75007 Paris
●アクセス
地下鉄:<9>イエナ(Iena)駅、<9>アルマ・マルソー(Alma-Marceau)、RER Cポン・ドゥ・アルマ(Pont de l’Alma)駅、<6>ビラケム(Bir Hakeim)バス:42番Tour Eiffel、63,80,92番Bosquet-Rapp、72番musee d’art moderne ? Palais de Tokyo
●開館時間
11時~19時(チケット販売は18時15分まで)
夜間開館日:木曜~土曜 ~21時(チケット販売は20時15分まで)
●休館日
月曜、5月1日、12月25日
●入館料
常設展:8.5ユーロ(割引6ユーロ)
企画展:8.5ユーロ(割引6ユーロ)
常設展+企画展:13ユーロ(割引9.5ユーロ)
18歳以下は無料毎月第一日曜は常設展、企画展とも無料
【参考サイト・文献など】
美術館公式サイト(http://www.quaibranly.fr/)
メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス(http://www.museesdefrance.org/)
Le Guide du musee – Musee du quai Branly, Musee du quai Branly, Paris,2006.
【おまけ】
続けてミュージアムめぐりしたい方は、こちらへどうぞ。ケ・ブランリ美術館から徒歩でまわれるミュージアムです。
東洋ギメ美術館 http://www.museeguimet.fr/
パリ市立近代美術館 http://www.paris.fr/portail/Culture/Portal.lut?page_id=6450
パレ・ド・トーキョー http://www.palaisdetokyo.com/