ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

去る1月15日、別府大学で開催された「大分県博物館協議会 博物館職員研修会」に講師として参加させていただきました。今回は、「ミュージアムITの最新事情と発展の方向性」と題しての講義です。

100人近い受講者の8割が学生さんで、残りが県内の学芸員の皆様。中には弊社のユーザ様もお越しになっていました。こうしてみなさま多くの方の前に立つと、かつて教職を志して母校で教育実習を経験したこと、アルバイトで塾の講師を務めたことを思い出します。あの頃は、「生徒さんに楽しんでもらう」ことには密かに自信を抱いていたのですが、やはり勝手が違います。お客様もいらっしゃるとあって、授業と言うよりプレゼンテーションのような空間になってしまったような気もします。最近、こうして学芸員の皆様向けに発表の場をいただく機会が増えていますので、日々精進したいと思っています。

さて、こうしてお話しする際にいつも思うのが、「ことミュージアムITに関して言えば、『先進的な事例』はあまりご参考にならないのかもしれないなあ」ということです。最新の技術を駆使したIT表現、オープンで外部連携ができるデータベースなどの話に感心してくださる方は多いのですが、一方では「当館は紙の台帳」「当館はExcelリストがやっと」「当館は収蔵庫の整理が追いつかない」といったご事情をお持ちの館なら、まるで別世界の話のように聞こえるのではないか、と。

弊社スタッフが全国で目にする博物館の実情から推察いたしますと、先進事例をそのまま導入できる館はほとんど稀です。目の前にあるのは「予算と人員」という、あまりにも高く厚い壁。正直、「参考にならない」とお感じになっても仕方がありません。

こうした実情を知っている立場として、今回のような講義やプレゼンの場では、素晴らしい先進事例を紹介するだけで話を終えないように心がけています。予算がないなら、どうすればいいのか。「普通の博物館」が先進事例に近づくことはできるのか、そんな時代は本当に来るのか。

「大丈夫です。そういう時代が来ると言うより、私たちが作るんです。みなさん、一緒に作りましょう」

私の話はどうしてもプレゼン色が強くなってしまうのですが、博物館の現状を考えれば考えるほど、こうしたメッセージを発信しなければ…と力を込めてしまうからかもしれません。もちろん、気合と根性で何とかなるほど、現実は甘くはありません。でも、環境の変化と技術の進歩と知見の蓄積が、それを可能にしてくれる時代が近づいていることは確かなのです。

「普通の博物館」が、先進事例に負けない手立てを講じることができる時代は、間違いなく来ます。それには、私たちIT業者が今以上に努力しなければなりませんが、それも博物館の皆様のご理解とご協力があってこそ。手を取り合ってどうにかして現状を打破したい、今はその一念で頑張りたいと思っているのです。

…と、私の独りよがりな話に、ご聴講の皆様は真摯に耳をお貸しくださいました。まだ現場経験のない学生さんたちが、きっと分かりにくかったであろう私の話を熱心にメモを取りながらお聞きくださるご様子に、新たな力が湧いてくるような思いでした。

拙い講義にお付き合いくださった皆様、またそれをお許しくださった事務局の皆様、本当にありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします。