- vol.149取材年月:2019年7月松江歴史館
散らばったデータをまとめるのは大変な作業ですが、
学芸員が「等身大の館の姿」を確認する機会にもなります。学芸員 藤岡 奈緒美 さん
-一昨年にお邪魔した時には、運用面でいくつかのご相談をいただきましたね。その後、状況はいかがですか?
藤岡さん:おかげさまで、いろいろと進展しています。お越しいただいたのは、ちょうどデータベースの見直しを検討していた頃で、進め方を相談させていただきましたね。
-あれからわずか2年ほどで資料情報をネットで公開するところまで漕ぎ着けられたのですから、すごい進歩です。ぜひ詳しくお話をお聞かせください。
藤岡さん:ありがとうございます。では、経緯をお話しする前に…松江城の敷地内に「興雲閣」という明治期の建築物があるのですが、ご存知ですか?
-あ、ちょうどさっき見てきたところです。すごく豪華な雰囲気の歴史的建造物ですよね。
藤岡さん:当初は工芸品陳列所として建てられたのですが、皇太子嘉仁親王の行啓時の御旅館などの役割を経て、昭和48年に市の博物館としての役割を担うことになって「松江郷土館」として活用していたんです。その後、保存修理のためいったん閉館しましたが、市として博物館を新たに作ろう、と。そんな経緯で出来た館なので、当時の資料台帳も残っているんですよ。
-何十年も前に作成された台帳が、いまのデータベースの土台になっているわけですね。建物は変わっても、資料と管理情報は代々継承されている…素晴らしいですね。
藤岡さん:ありがとうございます。というわけで、システムの導入当初は、そうした貴重な台帳の情報をしっかり移行することを重視していました。
-なるほど。2011年の開館の際にI.B.MUSEUM SaaSをご導入いただきましたが、その頃、藤岡さんはどちらにいらしたのですか?
藤岡さん:私は北海道で学生をしていました。こちらに着任したのは2016年です。
-北海道から島根へ…ですか。かなり距離がありますが、どちらも美しい自然に恵まれたお土地柄ですね。
-さて、着任された時点で、すでに I.B.MUSEUM SaaSが導入されていたということになります。当時はどんな様子でしたか?
藤岡さん:紙の台帳に記載されていた情報は、しっかり登録されていましたね。ただ、システム上での運用は紙とは勝手が違いますし、当時から考えていた情報公開のあり方まで勘案すると、早めにデータの体系を見直したほうがよいかも…と考えまして。
-それがちょうど、2年前にお邪魔した頃のことですね。
藤岡さん:ええ。着任して1年ほど経ち、少し落ち着いてきたので、本格的に着手しようとしていた矢先でした。本当は、あの時も、このインタビュー取材が目的でご訪問くださったんですよね。
-そうでしたね。それが、情報体系をどう見直すかという具体的な議論になって、会社に戻ってサポート担当とも相談して…。
藤岡さん:あの時は本当にお世話になりました。その後、ご担当の方に手伝っていただいて、「器を作り直す」という視点で作業を進めました。
-具体的にはどんな作業が発生しましたか?
藤岡さん:データの分類から組み立てなおして、たとえば、写真や絵はがきなどは、一括で登録し直しました。歴史や民俗、美術工芸などは、それぞれ確認しながら1点ずつ入力を進めて…。
-地道な作業ですよね。大変でしょう?
藤岡さん:確かに、ちょっと大変ですね。でも、私みたいに着任したばかりの場合は、逆によい勉強にもなるんですよ。当時の決裁文書で受入の経過などを確認しながら入力したりしていますので。
-なるほど。確かに、そこまで詳しくチェックする機会というのは、そうはないかも…。
藤岡さん:この作業を行っていると、情報が一本化されていくのが実感できるんです。紙台帳から起こした目録用のExcelのシートだったり、起案文書だったり…とバラバラになっている情報を、I.B.MUSEUM SaaSに集約していくという感じで。
-いや、すごいです、仰る通りです(メモ)。でも、そうなると、システムの機能でご要望もあるのでは? ご不満な点とか。
藤岡さん:不満というわけではないですが、出力した帳票に「ここに傷アリ」とか手書きでメモすることがあるんです。それをPDFで登録できると嬉しいかな。
-ちょうどよかったです。PDFの登録機能は、今年の12月に搭載される予定なんですよ。
藤岡さん:本当ですか! それはありがたいですね。
-ぜひご期待ください。ところで、システムに情報を統合する効果を実感される場面はありますか?
藤岡さん:ええ、たくさんありますよ。たとえば、大正や昭和の古い街並みの写真を報道関係の方に提供する時などは、ご希望をうかがえばすぐに検索できますからね。写真のニーズは高いので、ネットでの公開が実現すれば、もっとスムーズになるのでしょうね。
-公開するだけでなくて、ダウンロード機能をご活用の館も登場していますよ。自由にダウンロードできるようにすると、問い合わせ自体がほとんどなくなるそうです。公開時には、ぜひご検討ください。
-それにしても、データの再整備から公開まで、随分と円滑に進んだようですね。
藤岡さん:おかげさまで。私自身、着任前から資料情報の公開には思いがあったので、嬉しいです。
-着任前の思いとは?
藤岡さん:外から見る限りでは、松江藩中興の祖とされ大名茶人として名高い松平不昧や松江城の資料があることは想像できても、詳細までは分からないじゃないですか。ですので、どんな資料を所蔵しているのかがWEBから分かる環境を作れたらいいなと思っていたんです。
-なるほど。現状での進捗状況はいかがですか?
藤岡さん:まだまだ点数は少ないですし、十分とは言えません。もともと時間がかかる作業ですし。データ整備の実務だけでなく、各分野の担当者にチェックをお願いする必要がありますし、公開前には内容についての決裁を取らなければなりませんし。
-そうした手順を踏みつつ、ここまで順調に進めておられるのですから、頭が下がります。
藤岡さん:ありがとうございます。ひとりでも多くの方に喜んでいただけるものに育てていきたいです。
-弊社もサポートを頑張ります。最後に、隣接の「松江ホーランエンヤ伝承館」では、展示ガイドアプリの「ポケット学芸員」をご利用いただいていますよね。
藤岡さん:ええ、ホーランエンヤは10年に1回のお祭りで、今年の5月がちょうど開催のタイミングでしたから。市全体で外国人観光客のおもてなしに力を入れたいという意向もありまして。
-5か国語で配信されていますが、翻訳はどうされたのですか? 50館を超えるポケット学芸員導入館でも、フランス語のサービスを提供されているのはこちらだけなんです。
藤岡さん:市の国際交流員にお願いしました。皆さん松江にお住まいで、ホーランエンヤについても熱心に勉強して翻訳に臨まれましたから、安心してお任せできました。次は当館の基本展示室でもやってみたいなあと思っています。
-なるほど、参考にさせていただきます(メモ)。本日は、前向きなお話をたくさん聞けました。お忙しい中、ありがとうございました。
- Museum Profile
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松江歴史館
城下町として栄えた松江の歴史、城や町の移り変わりにまつわる豊富な資料を展示。畳敷きの館内、天守を借景にした日本庭園、伝利休茶室、家老長屋に加えて、歴史体験イベントも盛んで、松江らしさを堪能できます。国宝・松江城のすぐ東という好ロケーションで、漆喰塗りや下見板張りの建物も魅力。情緒たっぷりの堀川沿いで散策や観光の拠点としても最適ということで、内外からのたくさんの来館者で賑わう人気のミュージアムです。
ホームページ : https://matsu-reki.jp/
〒690-0887 島根県松江市殿町279番地
TEL.0852-32-1607