ミュージアムインタビュー

vol.171取材年月:2021年11月香雪美術館・中之島香雪美術館

独自の運用マニュアルを作成しつつ約5年、
今では学芸員の全員が正しく扱えるまでになりました。
香雪美術館 主任学芸員  落合 治子 さん
中之島香雪美術館 学芸員  大島 幸代 さん

-神戸市御影の香雪美術館で導入いただき、その後にできた中之島香雪美術館でも同じデータベースにアクセスする形でI.B.MUSEUM SaaSをご利用いただいています。かなり特殊なケースで興味深いのですが、まず香雪美術館の導入前のご様子からお聞かせいただけますでしょうか。

落合さん:私が香雪美術館に着任した2012年前後は、館の事業が急速に拡大した時期でした。システムの導入は、この頃からしばらく続いた館の周辺の変革の中での一要素ということになるかと思います。

-作品管理について、当時はどんな状況だったのでしょうか。

落合さん:管理用の情報カードがありました。ただ、それまで在籍していたベテラン学芸員が館を離れるタイミングと重なって、新しいスタッフで新しい管理方法を作ることになったんです。公益財団法人になり、展覧会の開催日数も激増していた上に中之島香雪美術館の開館も決まるなど、大忙しの中での作業となりました。

-なるほど。システムをご導入いただいたのは、2013年頃ですよね。館全体の風景が大きく変わるような状況の中で、よくデータベースの新規構築のことまで考えられましたね。

落合さん:私たち新しいメンバーが、古い作品カードや昔の資料に新しい情報を加えて展覧会を組み立てていく方法では、いずれ限界が来ると考えたんです。

-システムは比較検討されましたよね。I.B.MUSEUM SaaSをお選びいただいたのは、主にどんな理由からでしょうか。

落合さん:いろいろ比べた結果、将来的にデータが増えていくことにも対応しやすそうに感じたのが理由ですね。ただ、人員的に厳しくて、本格的にデータ整備が始まったのは中之島香雪美術館の開館準備が始まった頃でした。

大島さん:御影の香雪美術館には学芸員が従来からの2名、大阪の中之島香雪美術館には5名という体勢になって、本格的に始動した感じでした。互いに同じコレクションを扱うわけですから、データも一緒に整備していきましょう、と。

-なるほど。お話をうかがっているだけでハラハラしていたので、ホッとしました(笑)。本当に大変な状況の中でのデータベース構築だったのですね。

落合さん:おかげさまで、最終的にとても良い方向に進みました。

大島さん:開館準備側のメンバーにとっても、作品データはとても重要ですから、ここで一気に進められたのは大きかったと思います。

-意欲はあるのに人手不足でどうにもならないというお悩みは、全国各地のミュージアムで頻繁に耳にします。そんな中で、こうした成功のエピソードをうかがうと、こちらまで勇気づけられる気分です。

 


-さて、そんな経緯でデータ整備が始まったわけですが、システムの定着に向けてはいかがでしたか?

大島さん:正直、やはり大変でしたね。2016年から少しずつ進めて、全員が同じ意識と知識で正しく使いこなせるようになったのはごく最近ですから、5年近くかかった計算になります。

-5年と言うと、もしクラウドでなければ、ハードウェアの買い替えや契約更新などのタイミングに当たる年月です。やはりサポートが足りませんね…。

落合さん:いえ、それは当館側の事情の方が大きいと思います。

-特殊性についてはサポートスタッフから報告を受けておりますが、少し具体的にお聞かせ願えますでしょうか。

落合さん:当館のコレクションは、主に朝日新聞社の創業者が蒐集した作品で構成されています。当時は、美術館の所蔵品と村山家からの寄託品を、神戸の香雪美術館と大阪の中之島香雪美術館、そして村山家の蔵という3か所で保管していたんです。そんな事情から、管理がとても複雑で。

大島さん:館内業務からして特殊ですからね。たとえば、村山家の蔵にある寄託品を中之島で展示する際、香雪美術館の所蔵庫へ移すと「出庫」になります。ところが、それを中之島に移す時には「輸送」として扱わなければならないんです。御社のシステムは出品歴を記録できますが、想定されている履歴情報とはプロセスがかなり違いますよね。

-違いますね。弊社でも可能な限り対応できる柔軟性の追求に努めてはおりますが、実際の業務とシステムの仕様の差は、どうしても運用でのご調整に頼る部分が生じますので、今後への課題のひとつと認識しています。

大島さん:そんな状態でしたので、まずI.B.MUSEUM SaaSで何ができるかを勉強し、当館に合ったマニュアルを作成しました。先ほどの「5年間」は、全員が確実に操作できるようになるまでの期間ということになります。

-いや、驚きました。お手数をおかけいたしまして、申し訳ございません。逆に弊社のスタッフが独自の運用を理解できているか、心配になってしまいます。

大島さん:しっかりご相談に乗っていただいていますよ。新しいご担当も、最初こそ当館独特の質問で戸惑わせてしまいましたが、今ではすっかりご理解くださって、とてもスムーズにキャッチボールができています。

-ありがとうございます。ご運用の内容については、きっとほかの館にも役立つお話が満載だと思いますので、ぜひ別に機会を設けて学ばせてください。

 


-業務にシステムの定着までにはご苦労があったわけですが、その中で、機能的にご不満な点などはありませんでしたか?

大島さん:特に大きなものはないですが、展示や貸出情報の入力で対象作品とひも付ける時、その場で作品側の情報を編集できるといいなと思いました。

-流れがスムーズになりますよね(メモ)。作品情報から作家情報を登録できるよう機能を改善したこともあります。

大島さん:はい、それと同じ考え方です。作品管理から人物名簿管理に入り直す必要がなくなって本当に便利になりましたので、あれと似た動きができれば、と。

-さっそく社内での検討事項とさせていただきますね。ほかにはありますか? ご不満以外にも、たとえば気になる機能とか。

大島さん:帳票作成機能は、これからどんどん使っていきたいですね。あれも以前にはなかった機能ですよね。私も、サポート担当の方と「こういう機能があると便利ですよね」とお話ししていたんですよ。

-本当に、社内の開発スタッフと話しているような感覚になります(笑)。もうひとつ、情報公開についてお聞かせください。民間の美術館として公立館とはお考えが異なる点があるかと思いますが、このあたりはいかがでしょうか。

大島さん:職員によっても考え方が違うように思いますね。

落合さん:私もそう思います。御影は、現在開催中の展覧会が終わったら、建物・設備の改修工事のための休館期間に入りますので、美術館全体で考え方の整理から始められればと思っています。

-御影の方にはお邪魔したことがないので、休館前にお邪魔できればと思います。本日は貴重なお話がたくさん聞けました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

Museum Profile
香雪美術館・中之島香雪美術館 香雪美術館は、朝日新聞社の創業者である村山龍平が収集した日本と東アジアの古美術などを所蔵する美術館。歴史的建造物と庭園を楽しむことができる神戸市にある香雪美術館と、都会の新しいビルにある中之島香雪美術館という二つの個性的な館で運営されています。収蔵品は刀剣・武具、仏教美術や書跡、近世絵画、茶道具など多彩で、重要文化財19点、重要美術品33点を含みます。日本文化を守ろうとした村山龍平の想いを伝える美術館です。

ホームページ : https://www.kosetsu-museum.or.jp/ /

香雪美術館
〒658-0047 兵庫県神戸市東灘区御影郡家2丁目12-1
電話 078-841-0652

中之島香雪美術館
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルタワー・ウエスト 4階
電話:06-6210-3766