ミュージアムインタビュー

vol.86取材年月:2013年3月福山市中央図書館

郷土の歴史を守って伝えるという使命は、
博物館も図書館も同じです。
館長 早川 邦夫 さん
司書 鳥居 由紀 さん

-8年近く続けているこのインタビューですが、図書館さんのご登場は初めてなんですよ。まずは、今回のデジタルアーカイブ事業のきっかけからお聞かせください。

早川さん:その前に、少し福山についてお話ししてもよろしいですか?

-ぜひ教えてください。

早川さん:福山城は、徳川家康の従兄弟である水野勝成が築きました。廃藩置県前の福山の地図を見ると、城の前まで運河を引いていたことが分かります。

-(地図を見ながら)街自体も、川と運河で四方を囲まれていますね。

早川さん:ええ。城の南は干拓して土地を広げていたようで、図書館は、ペリーが黒船でやってきた2年後にできた藩校「誠之館」があった場所です。「欧米に対抗するためには、学問を身につけなければ」ということだったんでしょうね。その後は中学校になって、井伏鱒二らを輩出したりしています。

へえ〜。幕末からずっと「知識を身につける場所」だったんですね。

早川さん:そうなんです。今は、「バラの街」でもある福山にちなんで、「まなびの館 ローズコム」という愛称がついています。私たち職員の制服の色も、バラの色を意識しているんですよ。

-おしゃれな色ですよね。建物のデザインもモダンですし、それに今回のデジタルアーカイブの試みも先進的で素晴らしいと思います。

早川さん:今日はそのお話でしたね。

-博物館同様、図書館もアーカイブのやりがいがありそうですよね。

早川さん:そうですね。たとえば、図書館では新聞を閲覧することができます。ほかの図書館も同じだと思いますが、これ、捨てないで保存しているんですよ。当館の前身である「図書室」の時代から、ずっと。

-閲覧していた新聞なら、傷みが心配ですね。

早川さん:そうなんです。30年以上前のものは、もう閲覧も禁止せざるを得ないような状態でした。でも、新聞の地域版、ここでは備後版ですが、地元の歴史そのものですからね。

-インターネットで公開された市の広報誌も、同じように地元の歴史ですよね。

早川さん:ええ。そうそう、「広報ふくやま」は1951年の創刊なんですが、今年の3月で1000号を達成したんですよ。

-素晴らしい。継続は力、ですね。ぜひそれはアピールしないと。

早川さん:そうなんです。新聞は著作権の関係で、デジタルデータでも館内でしか公開できませんが、それでも紙に比べると閲覧が容易になります。それに、劣化を防ぐこともできますから、まさに地域の歴史を保存する事業なんです。

-市の広報誌も、新聞に負けないくらい福山情報が満載ですもんね。深い歴史を持つ市と、それを残して伝えるデジタルアーカイブ事業…理想的な展開だと思います。

-さて、実際に事業を進めていくとなると、ビジョンが素晴らしくても現実的にはお金や人の問題に突き当たることが多いものです。そのあたり、どうやってクリアされたのでしょうか。

早川さん:予算は、総務省の交付金を利用しました。その予算で、まずA2サイズの大型スキャナ等を導入しました。

-新聞のデジタル化ですから、大変ですよね。

早川さん:そうですね、PCやサーバ、それにデジタルアーカイブのシステムもありますからね。これらの調達の時、入札で落札された業者さんが用意してくださったのが、I.B.MUSEUMだったわけです。

-なるほど。ところで、スキャナを導入されたということは、デジタルデータ化は自前で?

早川さん:はい。専門の業者さんに発注するより、館で臨時職員を雇用した方が低コストでできますからね。

-なるほど。でも、システムへの登録もありますし、職員の皆さんはかなり大変だったのでは?

早川さん:データ作りは今も続いていますが、職員は頑張ってくれていますよ。ねえ?

鳥居さん:はい。今は、スキャナで撮りためた画像をI.B.MUSEUMに入れてキーワードを入力している段階ですが、毎日、時間を決めて交代で続けています。

-なるほど。登録作業をルール化されているんですね。システムの使い勝手はいかがですか?

鳥居さん:問題ないです。カスタマイズの時に項目を抑えて、プルダウンなどで入力しやすいように工夫をしていただきましたし。

-ありがとうございます。でも、毎日お使いいただいていると、気になることも出てくるのでは?

鳥居さん:そう言えば、思い当たることがなくもないですね。

-どんなところでしょう?

鳥居さん:うまく立ち上がらなかったこととか、画像登録に時間がかかったこととか。でもその都度対応してもらっていますし、つい先日もSEさんがわざわざ来てくださいましたしね。

-お役に立ったなら何よりです。SEの訪問は、「システムも自動車の6か月点検のような感じでケアしないと」という目的で始めた活動でして。

鳥居さん:導入時にも操作説明をしていただいたんですが、まだ使っていない時期だったので、理解し切れない部分がありました。加えて、しばらくはスキャニングに何か月か時間が必要でしたから、質問したいことがだんだん溜まっていったという感じですね。そんな時、「一度伺いましょうか」とお声かけいただいたんですよ。

-なるほど、ちょうどいいタイミングだったんですね。ほかに問題はありませんか?

鳥居さん:そう言えば、公開用の市のサーバに画像をアップロードする時、だんだん時間がかかるようになってきたのが気になりますね。SEさんにもお伝えしましたので、ご対応いただけるかと思いますが。

-それは本当に問題になる前に対処しておかないといけませんね。社内で確認しておきますね。

-さて、新聞の地域版を館内で、市の広報誌をインターネット上で公開されたわけですが、反響はいかがですか?

鳥居さん:まだPRが十分ではないとは思いますが、特に地元のマスコミの方の評判が良いようですね。お陰様で、「すごく便利になった」と声をかけてくださる方も多いですよ。

-それは良かった。PRについては、たとえば館のホームページなどで昔話をコラム的に書かれる時、参照先として広報誌データベースにリンクを張ってはいかがでしょう。市民の皆さんにも存在をアピールできますよ。

鳥居さん:なるほど、それは良い方法ですね。

-ぜひお試しください。最後に今後の目標についてですが、やはりデータの拡充でしょうか?

鳥居さん:そうですね。本文の見出しレベルまで登録していきたいと思います。広報誌から年代を超えた記事を一気に検索できたりすると面白いですよね。

-素晴らしいですね。私の出身地にも、そんなアーカイブを公開してもらいたいです。

早川さん:今のペースで職員が頑張ってくれれば、数年以内にはそのレベルになると思います。この事業は、予算とやる気があれば、どこの図書館でもできることですし、郷土の歴史を守って伝えるというのも重要な使命ですからね。

-博物館と同じですね。ほかの図書館さんにも、「ぜひ福山市さんの取り組みをご参考に」と提案してみます。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

<取材年月:2013年3月>
Museum Profile
福山市中央図書館 デジタルアーカイブページ:http://www.d-tosho.city.fukuyama.hiroshima.jp/

2008年、「まなびの館ローズコム」内に開館。水に浮かぶように立つガラス張りのモダンな建物の図書館です。館内は落ち着いた色調で統一され、窓が大きく天井が高く、開放感にあふれていて、とても快適。特集コーナー「福山らしさ」では地元ゆかりの人物・ミステリー・ばらの資料を収集しており、子育て応援センターや放送大学などとの複合施設となっています。名実ともに市民の知的活動の拠点として、いつも多くの人で賑わい、親しまれています。

ホームページ : http://www.tosho.city.fukuyama.hiroshima.jp/Toshow/
福山市霞町1丁目10-1
TEL:084‐932‐7222