ミュージアムインタビュー

vol.49取材年月:2007年11月前橋文学館

館の要望をシステムに反映するには、打ち合わせが重要。
データ整備基準や参考事例を用意しておくと後がラクですね。
学芸員 小林 教人さん
学芸員・司書 友廣 裕子さん

-前橋文学館さんがI.B.MUSEUMを導入されてから1年ほど経過しましたが、検討を始められたのはかなり前だったそうですね。

小林さん:そうなんです。私が着任した平成12年には、5カ年計画での資料の電算化プロジェクトがすでに整備段階に入っていましてね。その後、2年間かけてAccessにカード情報を入力したんですよ。

-しばらくはAccessで運用されていたわけですね。専用システムの導入に踏み切った理由は?

小林さん:Accessはひとつのステップで、もともとシステム導入を考えていました。あのデータベースは私たち素人が作ったものですが、最低限の検索はできたんですよ。これはこれで便利だったのですが、より効率的に資料整理業務を進めていくためには「高機能な専用システムが欲しいなぁ」と常々感じていたんです。それに、インターネットで収蔵資料を検索できるようにして、利用者の方々の利便性を向上することがシステム導入のそもそもの目的でしたしね。

-Accessでとりあえずのデータ蓄積をして、その上でシステム導入というわけですね。システムの予算は、すんなり確保できました?

小林さん:いえ、何度か先送りに。いくつかの会社さんに概算費用の積算をお願いしたんですが、きちんとした見積書を作ってくれたのは早稲田さんだけでしたね。

-ありがとうございます。それで弊社は提案コンペに参加させていただいたわけですが、その際に何かお気付きの点はありましたか?

小林さん:検索しやすそうなシステムだな、と思いました。項目設定の柔軟性の高さや入力補助機能なんかも印象的でしたね。導入後のサポート体制も含めて、感じたところを意見しましたよ。

-ありがとうございます。ここまでは非常に順調です(笑)。

-大きなご期待の中、システム構築が始まったわけですが、実際はいかがでしたか?

小林さん:正直、とてもキツかったですねえ。

-何か、ご期待に背くようなことが…?

小林さん:いえ、やはりプレッシャーを感じたということですね。初めて、それも一から家を建てるような感覚で、「失敗したらどうしよう」と。経験がないので完成イメージが固まっていませんでしたし、何をどうお願いすればいいのかもわからない状態でした。私たち学芸員の間でも意見が分かれてしまったりね。

-そんな状態を、どう克服されたのでしょう?

小林さん:とにかく打ち合わせに時間をかけることを重視しましたね。なかなか大変な作業でしたが、最終的に私たちの要望は細かく反映されたと思います。

-なるほど。それで、実際にお使いいただいてのご感想は?

友廣さん:現場では私が一番使っていますが、細かいところでやはり欲が出てきてしまいますね。

-ぜひ具体的にお聞かせください。ご不満点がおありなんですね?

友廣さん:いえ、システムの問題ではない部分が大半です。たとえば、固有名詞が分からない状態で遺品などを検索する時に、単語を見つけるのが難しかったり。

-なるほど。入力した方がどんな「名前」をつけたか、特定するのは難しそうですね。

友廣さん:そうなんです。技術的には難しいと思いますが、もう少し「曖昧な検索」に対応してくれると嬉しいですね。それから、一括登録の機能は便利なんですが、少し怖い気もしますね。使い方によっては、せっかく個別に修正を加えたデータを修正前の状態に戻してしまったりする恐れもありますからね。複数人で使うものなので、データ更新には細心の注意が必要かな、と。欲張りな話なんですが。

小林さん:欲張りついでに(笑)。Webインターフェイスは、前の画面に戻る時についブラウザの「戻る」ボタンを触ってしまいますが、システム上の「戻る」ボタンをクリックしないといけないんですよね。それに、項目を選択するときのプルダウンメニューで、選択肢が多数表示されると、探すのに苦労したりします。

-ふむふむ、改善の余地がありそうですね。データ整備のほうはいかがですか? インターネットでの公開を同時に進めておられましたが。

小林さん:I.B.MUSEUMに登録する際に、Accessファイルのデータを整備してCSVファイルに吐き出す形を取ったんですが、データがズレてしまって大変でした。

-申し訳ありません。データ移行の準備をもう少し念入りにやっておくべきでしたね。それで、現在はデータの問題は解決されてますよね?

小林さん: 最初は、いろいろと細かな問題もあったのですが、早稲田さんにご協力いただきながら修正を加えて、今ではかなりイメージに近いところまで来たと思っています。
収蔵資料のインターネット公開ができたことで、ホームページのアクセス数もかなり増えましたしね。これを閲覧室利用者の増に繋げるための工夫を、いま、館内で話し合っているところなんですよ。

-なるほど。すぐ次の目標を目指しておられるんですね。弊社も見習わないと…。

小林さん:早稲田さんは本当によくやってくださいましたよ。納品後もいろいろと相談に乗ってもらって、細かい手直しにもいやな顔ひとつせず応じてくださって。早稲田さんじゃなかったらどうなっていただろうね、と、職員の間で話題になったりね。

-ありがとうございます。お役に立てたようで…SEも喜びます。

-では、恒例の質問です。I.B.MUSEUMは、100点満点で何点でしょう…?

小林さん: ハコとしてのI.B.MUSEUMは、ほとんど100点ですね。あとは「どうデータで満タンにしていくか」という視点から採点させていただくと、75点くらいかな。せっかくのハコなので、まだまだこれからです。

友廣さん:個人的には、一番よく使う立場の自分が使いこなせていない部分を減点して、60点というところです。機能をまだ完全に把握していない状態の点数なので、私自身の問題なんですけどね。

-ご不明の点は、ぜひ遠慮なくお聞きになってくださいね。

友廣さん: 大丈夫です。すでに何度も電話させてもらってます(笑)。

-では、今後の展望などをお聞かせ下さい。

小林さん:まずはデータの充実ですね。画像や関連ファイルなどをどんどん入れて、システムのポテンシャルを引き出していきたいです。

-なるほど。ホッとする間もなく次の目標という感じですね。では、これからシステムを導入される方にアドバイスはありますか?

友廣さん:システムを入れる前に、きちんと統一したデータ整備基準を用意しておくと、導入後がスムーズになると思います。後から変更するのは大変ですからね。

小林さん:あと、いろんな館の事例、特に失敗例などを聞けるとよいですね。

-ご経験の直後だけに、実感がこもっていますね。本日はありがとうございました。

<取材年月:2007年11月>

Museum Profile
前橋文学館 萩原朔太郎をはじめ、平井晩村、高橋元吉、萩原恭次郎、伊藤信吉ほか多くの詩人を輩出した前橋は「近代詩のふるさと」と言われています。前橋文学館は、これら詩人たちに関する豊富な資料を展示、萩原朔太郎賞の受賞者展も開催されます。館の前には、豊かな水を湛える広瀬川が流れ、河畔緑道には多くの詩碑があります。文学館とともに訪れれば、まさに格好の文学散策コース。「水と緑と詩のまち・前橋」のシンボルとして、今後の発展が楽しみな文化施設です。

ホームページ : http://www15.wind.ne.jp/~mae-bun/
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