ミュージアムインタビュー

vol.216取材年月:2024年8月長野市立博物館

異なる分野の担当者が互いの情報を共有できる
統合的なデータベースの実現に向けて整備していきます。
学芸員  樋口 明里 さん

-弊社とは30年近くお付き合いいただいております。いつもありがとうございます。

樋口さん:こちらこそ。私は2013年、ちょうどクラウドへの切り替えを検討していた頃に着任しました。「これからはネットでポンとデータベースに入れるよ」と言われたのをよく覚えていますよ。

-当時のご利用状況はいかがでしたか?

樋口さん:ゲームや星空探索などのコンテンツも楽しめる来館者向けのデジタルミュージアムがありました。クラウド移行前は、システムの役割としては来館者向け資料検索が中心だったようです。

-館内業務でのデータベースの重要性も今とは大きく違ったでしょうね。

樋口さん:準備室時代から関わってきた先輩方は、頭の中に収蔵場所が入っていて、何も見なくても真っ直ぐ収蔵庫に行ける方々でしたからね。私たちはそうはいかなくて、民俗資料はカードを見れば場所が分かるのですが、検索できなかったので大変でした。Excelデータを作成していた分野もありまして、Excelデータや紙の情報、新しくとった写真を、一時的に人員を増やしてI.B.MUSEUM に入れたこともありましたが、完全ではなくて。

-正確性に問題があると、後々まで尾を引きますよね。

樋口さん:それでも、データづくりを手伝ってくださる人員がいたのは本当にありがたいんですけどね。Excelや紙のデータをシステムに集約して、データの中身を修正して。この10年は、ひたすらその繰り返しだったように思います。

-地味で先が見えない忍耐を強いられる作業ですよね。本当に頭が下がります。

 


-データの整備を進める過程で、何か発見のようなものはありましたか?

樋口さん:当館には、歴史・民俗・考古・自然・天文・美術と6つの分野があります。それぞれに専門の学芸員がいて、それぞれが仕事しやすい方法で管理していました。ある人はExcelで、ある人は手書きで…という状態ですね。これらの統合作業の過程で、管理面の課題が浮き彫りになったのはよかったと思います。

-管理手法がバラバラだと、ただひとつの器に盛ればよいわけではないですよね。

樋口さん:そうなんです。一人ひとりで細部まで異なる管理法が確立されているわけですから、まずは「自然史の担当が古文書のデータをスムーズに取り出せる」という環境づくりが目標となりました。完成はまだ先ですが、かなり「使える」状態になってきたと思います。

-素晴らしいですね。逆に、課題などはありますか?

樋口さん:情報共有を優先したので、各分野がある程度の妥協を呑む形になりました。たとえば、古文書の管理は階層構造がとても重要で、このシステムのデータ構造では不向きなのではないかという意見があったり。

-その点は、実は他館の方からもご指摘をいただいています。ただ、データベースの根本的な部分に関わる問題ということで、改善方法の議論に時間がかかっておりまして。現状では、関連登録などを使って疑似的に運用いただくのがベストかと思います。お手数をおかけいたしまして申し訳ございません。

樋口さん:いえいえ。資料群単位の情報はしっかり把握できているのですが、1件につき何千点とある資料を1点ずつ登録する作業は、たとえシステム側が問題なくてもそう簡単には行きませんし(笑)。ただ、データベース上の「1点」の定義が統一されていない状態であることは間違いありませんので、いずれ何とかしたいところですね。

-引き続き社内で議論を続けます(メモ)。ほかに何か気になる点などはございますか?

樋口さん:システムの画面に不慣れな人が、後ろのタブに配置されている項目に気づかないことが多いようです。当館の項目数の多さも原因のひとつかも知れませんが…。

-その点に関しては、このたびのインターフェイスのリニューアルでタブがなくなり、スクロールで移動するスタイルになりましたので、ご移行後は解決できます。

樋口さん:それならよかったです。当館では、資料の状況に関する情報が重要なので、見やすくなるとよいのですが。

-と仰いますと?

樋口さん:たとえば体験学習などでは、民俗や自然史の資料の実物に手で触れていただいているのですが、少し傷んだりすることがありまして。すると、状態のメモや今後の展示にまつわる指示が必要になりますよね。これは重要な情報ですので、見落とし防止のために、現在は資料名のすぐ下にレイアウトしているんです。

-なるほど。すぐ目につくところに配置したいわけですね。

樋口さん:はい。また、「この文書のこの部分は非公開」など、あらゆる注意事項を集約するイメージですかね。

-なるほど。新インターフェイスで効果的に配置できる方法を、サポート担当と一緒に考えてみますね(メモ)。

 


-さて、昨年度はデジタルミュージアム構築事業もありました。魅力的なページができあがりましたね。

樋口さん:ありがとうございます。お陰様で、観光や教育に向けての情報発信を重視しながら、データベースのメンテナンスもきちんと続けていけるデジタルミュージアムを実現できたと思っています。プロジェクトの中では、いろいろな方々とコミュニケーションを取れましたし。

-トップページには分かりやすいイラストがあしらわれていますが、あれは子どもたちのアクセスを意識されてのものですか?

樋口さん:そうですね。長野市の特徴をイラスト化して、そこからデータに入ってもらいたいという思いがあったようです。

-ほかに具体的な成果はありましたか?

樋口さん:高精細画像をダウンロード可能にしたところ、画像の提供業務の手間が目に見えて減りましたよ。メディアの方からは特に川中島の合戦に関する高精細画像を求められることが多かったのですが、申請書を提出いただいたらストレージにアップロードして、それをメールでお知らせして…という手間がなくなりました。

-公開と言えば、ポケット学芸員もご利用いただいていますね。

樋口さん:当館ではもともと紙の解説シートを配布していて、ストックが切れると追加で印刷していたのですが、これがかなりの頻度で。そのままポケット学芸員で配信することで、ペーパーレス化が実現しました。情報の修正や更新も簡単ですしね。

-ありがとうございます。ポケット学芸員で何か気になるところはありますか?

樋口さん:そう言えば、二次元コードで開くといいなという意見はありましたね。

-なるほど。Webアプリにすると二次元コードは相性がよいですし、ダウンロードも不要になりますので、ポケット学芸員をリニューアルするときにはその方法も検討してみますね(メモ)。では最後に、今後に向けての豊富などをお聞かせください。

樋口さん:先ほどの「専門分野でない学芸員でも分かるように」という理想の状態はまだ途上ですので、引き続きデータの整備を進めていきたいと思っています。

-インターフェイスのリニューアルも実施しましたし、少しでも進めやすくなるよう弊社もサポートさせていただきます。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

Museum Profile
長野市立博物館 武田信玄と上杉謙信による「川中島の戦い」で有名な川中島古戦場史跡公園にある博物館。善光寺平の自然や歴史、民俗などについて、豊富な収蔵品に加えて大型の復元模型やジオラマで視覚的に伝える常設展示が魅力です。多様なテーマの特別展や体験イベントも活発に開催されていて、オリジナルプログラムを上映するプラネタリウムも併設。美しく整備された公園の散策も含め、1日かけてたっぷりと楽しめる長野市の人気スポットです。

〒381-2212
長野市小島田町1414 川中島古戦場史跡公園内
Tel 026-284-9011
ホームページ:https://www.city.nagano.nagano.jp/museum/