ミュージアムインタビュー

vol.215取材年月:2024年6月総社吉備路文化館

作品データは、気付いたその場で入力・修正すれば
「あの時に済ませておけばよかった」を避けられます。
学芸員  豊嶋 乃女 さん

-まずは「学芸員ラップバトル」での優勝、おめでとうございます!

豊嶋さん:ありがとうございます(笑)。

-メディアでも多数取り上げられましたね。反響はいかがでしたか?

豊嶋さん:当日販売していたTシャツを着てギャラリートークにご参加くださった方がいらっしゃったりしました。役所内でも話題になったみたいで、声をかけられることもあるんです。

-私も会場で観戦しましたが、お見事でした。さて、ではシステムのお話を。最初に、ご導入前後のご様子からお聞かせください。

豊嶋さん:当館は、市役所や図書館など市内の各所で管理されていた所蔵作品をもとに、市が県から建物を譲り受ける形で平成26年に開館しました。私はその翌々年に着任したのですが、総社市としては初めての美術品収蔵施設ということで、前任は学芸員の資格をお持ちの行政職の方でした。

-となると、作品データの整理からしてひと苦労だったでしょうね。

豊嶋さん:そうなんです。それぞれの作品が異なる備品リストで管理されていたようで、書式も項目もバラバラのExcelファイルがいくつもありました。市にとっても私個人にとっても「はじめての学芸員」状態だったので、展覧会の準備や解説づくりなどの仕事で手一杯で。

-データまではなかなか手が回らないですよね。

豊嶋さん:課題としては認識していたのですが、最初の1年くらいは手が付けられませんでした。データベース構築の検討が動き出したのは、平成30年のことです。

-ご着任から2年を経て、ようやくデータ整理の入り口に漕ぎ着けられたのですね。ご苦労が偲ばれます。

 


-続いては、検討開始からI.B.MUSEUM SaaSを導入されるまでの経緯をお聞かせください。

豊嶋さん:検討が始まった当時、私は月に1回くらいの頻度で県立美術館にお邪魔していました。研修のほか展示替えなどをお手伝いしていたのですが、ちょうど作品データベースをI.B.MUSEUM SaaSに切り替えられたタイミングで。その後、御社に問い合わせて、当館でも導入を決めました。

-ご導入の際には、整理されたExcelからのデータ移行も弊社にお任せいただきました。その時点では、画像データもきちんと揃っていましたね。

豊嶋さん:はい、全部で1,300~1,400点ほどの所蔵作品のうち、約1,000点はご寄贈いただいた際に撮影されていて、同時に資料データとの紐付けもされている状態でした。残りのデータは、時間を見ながら自分で整理できましたので、意外にスムーズに移行準備を完了できました。

-現在は、実際のお仕事でご利用いただいているわけですが、使い始めて戸惑った点などはありませんでしたか?

豊嶋さん:資料利用の機能をよく使うのですが、展示の概要を入力した後、対象作品を追加したり外したりする操作は慣れが必要でしたね。

-追加したり外したりということは、あれこれ検討しながら作品をリストアップする作業にお使いなのですね?

豊嶋さん:はい、そうです。

-であれば、資料利用よりも資料データベースのクリップリストの方が分かりやすいと思いますよ。対象作品を確定するまでの検討はクリップリスト上で行って、展示作品として確定した段階で、資料利用からクリップリスト上の作品データを紐付けるという流れです。

豊嶋さん:そんな方法があるんですね。では、次回に試してみます。

-もし分かりにくければご連絡くださいね。資料利用は、ほかの皆さんもお使いですか?

豊嶋さん:いいえ。当館では年に3〜4回ほど展覧会を開催するのですが、基本的に学芸員は私ひとりですので。

-え? おひとりで展覧会を担当しておられるのですか!

豊嶋さん:はい。ですので、作品データについては展示用のキャプションを作る時などに内容を見直して、漏れや間違いがあればその場で修正するよう心掛けています。そうしないと、「あ〜、あの時に入力しておけばよかった!」ということになるんですよね(笑)。

-データベースの「あるある」ですね(笑)。それにしても、おひとりで企画しておられるというのは驚きました。システムが少しでもご負担を軽減できていればよいのですが。

豊嶋さん:もちろんです。たとえば、出品歴が自動的に蓄積される機能は、作品の出し過ぎを防ぐことができて大助かりです。「この作品は、何年何月のあの展覧会で出品した」とか、手動ではたぶん記録し切れないと思いますし。

-使いこなしてくださっていますね、ありがとうございます。逆に、ご不満な点はありませんか?

豊嶋さん:不満と言うほどでもないのですが、「通算で一定の期間以上にわたって展示した作品」といった感じで、展示日数を切り口に作品を抽出できる機能があると嬉しいですね。

-日数を気にかけておられるということは、繊細な紙ものが多いということでしょうか。

豊嶋さん:その通りです。当館では高木聖鶴さんという地元の書家の作品を所蔵しているのですが、常設展示では季節ごとに入れ替えながら使っているんです。ある作品を展示しようと思ったら、前年にも展示していた…というケースがままありまして。そこで、予め「前年度に展示しなかった作品」だけを抽出して、そこから選べると助かるな、と。

-なるほど、ほかの館で喜ばれるかもしれません。さっそく検討してみますね(メモ)。

豊嶋さん:あとは、展覧会の情報の入力中に対象作品のデータを修正すると、もう一度展覧会の編集画面に入り直さないといけませんよね。あれがちょっと面倒な気がします。

-ご安心ください、そこはユーザ・インターフェイスのリニューアルで改善されました。展覧会の画面はそのままで、展示作品の編集画面を別タブで開けるようになりましたので、入り直す操作はなくなりますよ。

豊嶋さん:そうなんですか、それはとても助かります。

-新画面への切り替えの際、サポート担当から詳しくご説明いたしますね。

 


-さて、今後のことなのですが。システムをしっかり使い込んでくださっているとなると、次の課題はデジタルアーカイブの公開でしょうか。

豊嶋さん:そうですね。法律も変わりましたので、早く進めなければと思ってはいるのですが、もう少しデータの見直しが必要な状態で。

-これだけのお仕事をおひとりでこなしておられるのですから、無理もありません。最近では、デジタルアーカイブの前に展示ガイドアプリの「ポケット学芸員」で情報を公開される館もありますよ。

豊嶋さん:あ、ポケット学芸員は、以前から使ってみたいと思っていたんです。

-そうですか! 基本的に館内展示のポイントとなる作品の案内で、点数も少なく済みますのでオススメです。

豊嶋さん:当館の周辺は県立の自然公園ですし、古墳や史跡もありますから、一緒にガイドできたら面白いかなと考えていたんです。

-その時にはしっかりサポートさせていただきますので、ぜひお声がけくださいね。本日はお忙しい中にお時間をいただきまして、本当にありがとうございました。

Museum Profile
総社吉備路文化館 全国でも10番目の大きさという作山古墳をはじめ、岡山県総社市に伝わる豊かな歴史を満喫できる「吉備路風土記の丘県立自然公園」内のミュージアムです。市及び総社市文化振興財団が所蔵する書や絵画、工芸作品などを多数収蔵しており、常設展示されている郷土出身の書家・高木聖鶴の作品のほか、約1,000点に及ぶ版画コレクションも充実。周辺史跡を解説するパネル展示も好評で、美術体験と歴史散策で豊かな休日を過ごせる施設です。

〒719-1123 岡山県総社市上林1252
電話:0866-93-2219
ホームページ:https://www.city.soja.okayama.jp/bunka/bunka_sport/hakubutu/soja_kibiji_bunkakan.html