ミュージアムインタビュー

vol.185取材年月:2022年8月韮崎大村美術館

データベースは、「継続可能な仕組み」を作ること。
情報共有が進むほど、館の力は強くなると思います。
学芸員   九鬼 菜生 さん

-こちらは、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞された、あの大村智博士が創設された美術館とか。

九鬼さん:はい、そうです。2007年に私立美術館として開館し、翌年に韮崎市に寄贈されました。

-寄贈というと、美術作品を、ですか?

九鬼さん:美術館を丸ごと、ですね。

-すごい…スケールが違いますね!

九鬼さん:よいものは多くの人と分かち合いたいというお考えから、ご寄贈に至ったと聞いています。また、地元である韮崎の街への恩返しの意味もあったようで、隣接する蕎麦屋さんや温泉施設も大村先生が作られたものなんですよ。

-実は、先ほど向かいの蕎麦屋さんにも行ってきたのですが、地元の方々で満席でした。それにしても、建設した建物ごととは…。作品が寄贈されたのを機に自治体で美術館を作るという話はよく耳にするのですが。

九鬼さん:当館には館長として今も深く関わっておられて、企画展のアイデアなども出してくださるんですよ。交流のある作家さんも多いですから、蒐集した作品にも強い思い入れをお持ちです。実際に、窯元を直接訪ねて購入されたものもありますし。

-美術の方面にも明るいのですね。さすがは大村先生です。

九鬼さん:ノーベル賞を受賞された後、開館10周年のタイミングで、館内に「大村智記念室」が新設されました。研究資料はもちろん多様な品々が増えていますので、それぞれベストな管理方法を模索しています。

-たとえば、どんな品ですか?

九鬼さん:昨年の東京五輪で聖火ランナーを務められた時のトーチとか。あと、実は「亀の置物」のコレクターでもいらして、実際に展示もしているのですが、分類方法をどうしようかと。

-コレクションに付随する資料も扱われている館では、よく似たご相談をうかがいます。あまり細かく分類するとそれまでにない種類の品が入ってきた時に困りますし、判断基準自体が変わることもあり得ますので、まずは「ゆかりの品」のような大きな言葉で括った方が管理しやすいと思います。

九鬼さん:なるほど。ひとまず、それがよさそうですね。

-作家さんとお付き合いがおありなら、その方々にまつわる資料も多いのでは。

九鬼さん:そうなんです。写真や日記、スケッチブック、画集や書簡など、研究には重要な資料ばかりですので、早く登録を進めないと。ただ、作家の方がお亡くなりになった際にはご遺族からご寄贈いただくこともあり、数がどんどん増えていまして。

-多くのミュージアムが共有する課題ですよね。

九鬼さん:今は一時的に人員が減った状態で、資料整理担当の私が展覧会の担当を兼務しているんです。当面は仮置きして、体制が整い次第、作業を再開する予定です。

-資料が増え続けると、焦りも募りますよね…。大変なお仕事です。

 


-そんな多忙な日々の中でも、I.B.MUSEUM SaaSのご導入から間を置かずに作品データを公開されたどころか、サブの公開ページまで開設されましたよね。館内業務にはむしろ余裕があるのかと思っていました。

九鬼さん:もともと作品の基礎データを可視化して、収蔵品の管理に活用するという目的での導入でしたからね。また市立美術館なので、市民への情報公開も重要な役割として捉えています。当館は少人数で運営していますのでマンパワーに限界がありますが、情報を公開すればむしろ外部の方々のお力で研究が進む面もありますし。

-公開ページは、一般の方だけでなく他館の学芸員が利用するケースも多いですからね。

九鬼さん:資料情報を公開すると仕事の一部が外からも見えるようになりますから、館の性質を広くご理解いただくことに繋がると思うんです。また、行政関係者に対して館の価値を可視化するという面でも、情報公開は重要だと考えています。

-まさに仰る通りです。登録データはシステム導入前から揃っていたのですか?

九鬼さん:開館10周年を機に制作した図録のデータがありました。あとは、館長が科学者ですので、「まずはトライしてみなさい」というスタンスで接してくださる点も大きいと思います。肩書きやキャリアに関係なくチャレンジさせていただける風土は、本当にありがたいです。

-科学者が作った美術館というのはインパクトがあります。ほかに特徴的な館内文化はありますか?

九鬼さん:情報公開に至るまでには、実物に当たる概要調査と寄贈記録の遡及調査・入力情報の確認・承認を経て公開へと進む手順が細かくワークフロー化されていたり、内容の検証には学芸員以外のスタッフにも協力を仰いだり。

-漏れや抜けを防止するだけでなく、客観性まで担保されそうな仕組みですね。とても勉強になります。

 


-さて、システムについて何か気になることはありませんか?

九鬼さん:以前、ある作家のスケッチブックの画像をサブの公開ページで公開する際に、画像照合アップロードの機能を活用したのですが、操作が複雑で。サポートの方に手伝っていただきました。

-ご不便をおかけして申し訳ございません。ただ、近く予定しているリニューアルで、一部は改善できると思います。

九鬼さん:あとは、これは私たちの課題なのですが、現在は展示する作品を優先的に登録していますので、早く全データを網羅したいですね。ただ、WordやExcelなどの元データは担当者によって作り方が違いますから、やはり細かい検証が必要で。

-細かい検証と言いますと、実物に遡る場面もありそうですね。

九鬼さん:そうなんです。でも、昔は寄贈のペースが速く、今以上に情報整理が追い付かない状態だったはずですので、先輩方はもっと大変だったのではないかと思います。まだシステムもなかった時代ですし。

-ご苦労の結晶ですから、慎重なデータ整備が問われますね。

九鬼さん:はい。いまある情報を頼りに作品をあたり、サイズを測ったり写真を撮ったりしながらデータを整えているのですが、作業の中で気づくことなどもありますからね。そうした記憶が薄れる前に、なるべく早く登録していきたいです。

-そこで、先ほどのワークフローが活きてくるわけですね。

九鬼さん:そうですね。月に一度のミーティングで1か月分の登録データを点検します。たとえば、「箱書きのタイトルはこうだが、裏には別のことが書いてある」「館の収蔵品として正式にどの表記を採用するか」など、実際にシステムの画面を見ながら話し合っています。

-すごい、会議ツールとしてもフル回転なのですね。

九鬼さん:はい。館長や副館長、事務局長のほか、韮崎市のご担当にも毎回入っていただいています。

-しかも、あの大村先生のお仕事に貢献しているとは、感無量です。それにしても、情報共有には本当に力を入れておられるのですね。

九鬼さん:情報が途絶えるのは避けなければなりませんから。情報共有が進むほどに組織は強くなると考えていますので、継続可能な仕組みを作るという目的においてI.B.MUSEUM SaaSはとてもマッチしたツールだと思っています。

-継続可能な仕組み…弊社も肝に銘じます。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

Museum Profile
韮崎大村美術館 ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智博士が蒐集したコレクションをもとに、2007年に開館。翌年、地域の文化振興を目的に故郷の韮崎市に寄贈されました。近代以降に活躍した日本の女性作家による作品、洋画家の鈴木信太郎作品、日本の民藝運動を伝える陶磁器作品などが中心で、イベントなども活発。現在はエリア全体を大村記念公園と呼んで、博士の生家・蛍雪寮(登録有形文化財)と創新苑(庭園)など、大村博士が手がけた隣接の温泉施設や蕎麦屋とともに、一日ゆっくり過ごせるアートスポットとして人気を博しています。

〒407-0043 山梨県韮崎市神山町鍋山1830-1
TEL 0551-23-7775
ホームページ:http://nirasakiomura-artmuseum.com/