ミュージアムインタビュー

vol.122取材年月:2016年10月天城町立ユイの館

データを先に公開して、地元の皆さんと一緒に検証する。
そんな考え方も「アリ」だと思います。
社会教育課文化財担当 具志堅 亮 さん
文化財保護審議委員 副会長 山田 文彦 さん

-I.B.MUSEUM SaaSを導入されて早々に「天城町文化遺産データベース」を公開されましたね。具志堅さんはこちらのご出身なんですか?

具志堅さん:いえ、私は7年前にこの島に来ました。当館は、島内の各小学校にある郷土資料を引き受けていましてね。当時は、各校が作っていた台帳が基礎データを記載した管理ツールでした。

-書式からしてバラバラでしょうから、博物館としての収蔵品データを構築するとなると、ものすごく大変そうですね…。

具志堅さん:私たちには「奄美遺産」というコンセプトがありまして。徳之島も属する奄美群島全体で、住民が大切だと思うものを文化財として残していこうという考え方なんです。よって、館の収蔵品データというより、地域の文化財全体を把握しようというのが、データベースづくりの目的になりました。

-なるほど。それで公開ページのタイトルが「天城町文化遺産データベース」となっているんですね。

具志堅さん:ええ。文化庁の事業を活用して、集落の聞き取り調査などを進めるうちに、「これはデータベース化が必要だ」という結論になって。この事業の3年目に、システムを導入することになりました。

-I.B.MUSEUM SaaSにお決めになった理由は?

具志堅さん:鹿児島市さんの「かごしまデジタルミュージアム」を拝見したのがきっかけですね。「こういうのを作りたいなあ」ということで、構築に関わっおられる業者さんにご相談しまして。詳しくお聞きすると、データベースは御社のものだということが分かったんです。

-弊社のスタッフが提案に伺っていないのにご契約のお話をいただいたのは、そういうご事情だったんですね。

-となると、「システムを一度もご覧にならずに導入を決めた」ということになりますよね。ご不安はありませんでしたか?

具志堅さん:正直、実際にシステムを見るまでは不安でした。でも、いざ実際に使ってみると、画面がキャッチーな感じで分かりやすかったので、安心しました(笑)。以前はFileMakerを使っていて、自分でカスタマイズする作業には慣れていたので、いろいろと試しながら…。

-I.B.MUSEUM SaaSは博物館の収蔵品を目的としたシステムですから、こちらの目的に合わせるとなると、アレンジが必要だったでしょうね。地域の文化財となると、分類の考え方から違うでしょうし。

具志堅さん:そうなんですよ。そこは御社の担当の方に手伝っていただきました。

-具体的にはどんな部分を変更されたのですか?

具志堅さん:私のFileMakerのデータを見ていただいて、初期状態で用意されている大分類から大幅に変えることになりました。今は、山田さんに自然の分野のデータをお任せして、項目を作っているところなんですよ。

-山田さんも、島外から来られたのですか?

山田さん:ええ。この環境を気に入りましてね。私は動物写真を撮っているのですが、いずれは図鑑のようにしていきたいと考えています。「その動物はこれですよ」と、パッと示せるように。

-あ〜いいですね、それ。データベースは少し取っつきにくいと感じる方もいらっしゃるでしょうから、図鑑と言われると気軽に見られそうです。

山田さん:そうなんですよね。気楽にザッピングして「何それ?」とめくっていくような面白さを提供したいですね。たとえば、空港近くの干潟でノコギリガザミというカニが取れまして、調理は大変ですが高級食材ですごく美味しいんですよ。でも、地元の方でも意外とご存じないんです。

-それは地元再発見の図鑑になりますねえ。

山田さん:そうでしょう?公開ページに、ランダムに画像が入れ替わる「ピックアップ」の欄がありますよね。ああいうのが「気づき」につながると思うんですよね。

具志堅さん:こんな感じで進めてくださいますから、大船に乗った気分で(笑)。生物分野の入力は、山田さんに一任しているんです。

-どんなデータになるか、個人的にも楽しみです。

山田さん:でも、生物以外にも、いろいろと進めたいことがあるんですよね。

-ほう? たとえば?

山田さん:島には14の集落があるのですが、それぞれのいいところを集めた「14のたから」という冊子を作ったんです。ここに載せたネタなんかも、ぜひ効果的に発信していきたいですね。これがその冊子なんですけど…。

-うわぁ、これはすごい! 集落ごとに、こんなにいろんな「名物」があるんですか!

山田さん:ね。すごいですよね。

-「イジュン」という言葉があちこちに出てきますけど、これは?

具志堅さん:島の言葉で「泉」のことです。井戸じゃなくて泉で水を汲むので、人々が集まる場所だったんですよ。

-すごい、楽園みたいだ…。これ、弊社のアプリなら地図と連携できますよ。

山田さん:そうそう、それそれ(笑)。ここに載っている情報をデータベースに登録して、地図アプリで配信したら面白いだろうなと思っていたんです。

-ホントですね。スマホを持って島めぐりか〜、楽しいだろうなぁ…。

具志堅さん:その次は、食文化もデータベース化していきたいと思っています。

山田さん:食文化は失われるのが早いですからね。

-確かに。島の美味しさを護る…という感じですね。いや、それはぜひ残していかないと。

具志堅さん:あと、地元の写真も集めたので、これも登録できればと思います。

山田さん:昔の写真に写っている何気ない作業の様子などは、お年寄りに教えていただかないと分からないものもありますからね。今のうちに伺って、記録していかないと。

-いや〜、恐れ入りました。弊社もぜひ協力したいです。

-それにしても、データ公開までが早かったですよね。データはいつ検証されたのですか?

具志堅さん:そこは、公開が先行した形ですね。多少不備はありますが、直しながら運営しよう、と。

-う〜ん、思い切りの良さもすごいですね。でも、実に前向きで。

山田さん:島外から来た私が言うのもなんですが、「ちょっと曖昧かな」くらいの感じで公開しても大丈夫だと思いますよ。土地柄、みんな家族みたいな感覚ですから、不備を見つけた方も「教えてあげるよ」という雰囲気で指摘してくださいますから。

-なるほど、まさにユイ(助け合い)の精神ですねえ。そのおおらかさも、徳之島の魅力なんですね。

具志堅さん:そうなんです。いいところでしょ(笑)。

-はい、住みたいくらいに(笑)。

山田さん:先行して公開すると、情報が集まりやすいという利点もあります。正確性も重要ですが、歩みを止めるうちに地域から情報がなくなってしまったりすることの方が恐ろしいと思いますよ。

-ごもっともです。そのお考え、「もうひとつの方法」として全国の館にお伝えしていきますね。今日は前向きなお話の数々が聞けて勉強になりましたし、個人的にも勇気が出ました。本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました。

 

<取材年月:2016年10月>
Museum Profile
天城町立ユイの館 「ユイ」とは、島の人たちが昔から大切にしてきた助け合いや励まし合いの精神のこと。ユイの館は、「集う」「育てる」「遊ぶ」「見せる」「学ぶ」の5つの柱に着目したイベントが展開される徳之島・天城町の博物館です。郷土の歴史や文化、自然にまつわる幅広い展示のほか、島に伝わる民謡の映像や、西郷隆盛の関連展示も人気。図書館も隣接し、温かで穏やかな空気に惹かれて島内外から人々が自然と集う、まさに「ユイ」の館です。
ホームページ : https://www.yui-amagi.com/modules/pico/index.php?content_id=167
〒891-7611 鹿児島県大島郡天城町天城431-9
TEL:0997-85-4720