2018.12.27
ドアを開けず入館できるミュージアム ~名護博物館訪問記
「こちらでお待ちください」と通していただいたのは、壁のない、外とつながったとてもオープンなスペース。長くこの仕事に携わっている私は、これまで恐らく4桁に届く博物館を訪れていますが、ここ名護博物館は、その中でも屈指のアットホームさ。もしかしたら、五指に入るかもしれません。
この写真で説明いたしましょう。写真中央のやや左、小さな水槽が乗った本棚の向こうに長椅子が見えますね。実はここまでが「屋内」で、その先に見えるクルマは「屋外」に置いてあることになります。
屋内と、屋外。両者を隔てる壁もドアもない上に、クルマの少し先には小学校があるとか。放課後になると、子どもたちがワイワイとやってくるのだそうです。
この写真は、屋外から見た風景。ドアを開くことなく「館内に入る」わけですから、子どもたちは普段通りの元気さで入館してきます。よって、見守ってくださっている学芸員の皆さんも、彼らの目には「気さくで物知りな大人の人」に見えることでしょう。そもそも、博物館と意識していないのではないかと思います。
というわけで、少し展示内容を見てみましょう。
こちらは、沖縄特産のアグー豚。暑さや粗食にも強く、肉質も優れているのですが、生育に時間がかかるために外国の品種に押され、絶滅の危機に陥ったそうです。そこで、1980年代に入り、こちらのミュージアムの初代館長と地元の高校教諭が復活に尽力なさったとのこと。現在、那覇市内にはアグー豚が食べられるお店があちこちにあるのは、人気復活の証拠ですよね。
畜産用品や生活用具などがたくさん展示されています。一見、雑然とした雰囲気に見えますが、これはかつての生活ぶりを忠実に再現したものだとか。言われてみると、足もとにいる鶏たちも、今にも駆け出しそうなリアルさです。
この地方ではかつて捕鯨が行われていて、解体工場もあったそうです。当時の写真が展示されていました。貴重な資料ですね。
こちらは、アカウミガメとアオウミガメ。どちらも名護の砂浜にやってきたそうです。
これはジュゴンの骨格標本。昔のジュゴンは高級食材で、琉球国王にも献上されていたそうですね。
この船は「タンクブニ」といって、米軍の戦闘機の燃料タンクを船に改造したものだそうです。なんでも生活に利用する、この地の人々の逞しさを感じます。
この地方独特の骨壺。途中で墓地を見かけたのですが、ひとつひとつがとても大きく、屋根があるものもありました。こんな立派な骨壺を入れるのであれば、お墓も大きくなるはずだ…と納得。
地域の博物館運営が話題になるとき、「地域に溶け込む」「住民と一体となって」という言葉を耳にします。来館者の動線を考えて、それぞれのプロフェッショナルが緻密な設計を積み重ねることは、とても大切だと思います。けれども、「何もかもが自然体」というスタイルなら、何の気負いもなく展示を楽しめる…そんな魅力を実感しました。
この日は、仕事の訪問ですので、当然ながらスーツにネクタイ。もちろん場違い感が半端ではありませんでした。次回はTシャツと短パンで、いや、それよりも「かりゆしウェア」で…と心に誓う私でした。