2018.11.10
子どもたちの大歓声、その秘密は「目線」にあり。
水族館と言えば、巨大なジンベエザメや、イルカたちのショー。しかし、ここ、島根県立宍道湖自然館ゴビウスには、そうした目を惹く生き物はいません。それでも、子どもたちのハイテンションな歓声が絶えないという、不思議な施設なんですよ。
というわけで、今回は、その秘訣を探ります。まずは巡回しないと始まらない…のですが、この日は幸運なことに、飼育展示係のMさんにご案内いただけるという幸運が。これは鬼に金棒です。
Mさんと一緒に館内をまわると、大人の私でも、思わず声が出そうなお話が山のように聞けました。しかしながら、まず痛感したのは、自分のおバカさ。たとえば、こんな会話です。
Mさん「シラウオの人工採卵はとても難しいのですが、いまここにいるのは3代目でしてね。これは貴重な事例なので、今回、シラウオ専用の水槽を作ることになったんですよ。今の季節はまだ小さいんですけどね。」
私「そうですか? よく軍艦巻きとかどんぶりで食べるのと比べても大きいように思いますが…」
Mさん「それ、シラスですね(苦笑)」
いやあ、赤面するわ、冷や汗をかくわ(笑)。思い込みって怖いなあ、と反省していると…。
さっそく中から子どもたちの歓声が聞こえてきます。それも、ハンパな賑やかさではないんですよ。私たちが会話できないくらいの、掛け値なしの「大歓声」です。
「何だろう? 子どもが喜びそうな魚がいるのかな?」と不思議に思って進むと、そこには「汽水」の魚たちの展示が。汽水とは、淡水と海水が混ざり合っている水のことで、ここ宍道湖は海水の10分の1くらいの塩分濃度なのだそうです。
とても興味深いですね。でも、子どもが喜びそうかと言ったら、そうでもないような…。
すると、こんな光景が。これ、何かお分かりですか? 何と、あの「シジミ」なんですよ!
「シジミに水槽ひとつ用意する水族館って、うちくらいですよね」と苦笑いのMさん。確かに、ちょっと見たことがないですね。個人的には、みそ汁の具のナンバーワンとしてお馴染みなので内心嬉しかったのですが、でも、これ、子どもたちも面白いのかな?
周りを見渡すと、大はしゃぎで喜ぶ子、興味津々で見つめる子、みんな笑顔なんです。なぜ?
子どもたちの様子をしばらく眺めていたら、ひとつ、気付きました。この展示、子どもの目線の高さとピッタリなんですよね。たとえば、こちらの大型水槽もそうです。
子どもたちの身長だと、本当に「目の前にある」んです。これなら思わず顔をくっつけて見ることになると思いますが、そこにこんな感じでエイが顔を見せてくれたら…そりゃあ楽しいですよね!
こっちのヘビも、ちょうど子どもの顔の高さくらい。私の目線では見下ろす感じになりますが、顔から10センチのところにこのヘビがいたら、すごい迫力に感じるでしょうね…。
こちらは、オオサンショウウオ。これが目の前にいるとご想像ください。子どもにしてみれば、もう恐竜なみのインパクトもしれません。
ちなみに、このオオサンショウウオたちは身体にマイクロチップが埋め込まれていて、定期的に健康診断を受けているそうです。健康管理も、中年オヤジの私以上です。
カエルやタガメ、ゲンゴロウもいました。
こちらの水槽も凄いです。子どもが少しかがむと、タガメやゲンゴロウを横から見ることができるようになっているんです。大人だと、一番いい角度から見るには、かなり沈み込まなければなりません。どこまでも子どもファースト、ちょっと様子を眺めただけでは「なぜ歓声をあげているのか」も分かりませんよね…。
ふと見ると、子どもたちはザリガニと戯れるのに夢中になっていました。そこで、タイミングよくお話しくださったMさんの解説に耳を傾けます。
「最近、このあたりの子どもも、川遊びが禁止されているそうなんです。こうして生き物に直接触れる機会は、もうほとんどなくなっているんですね」
これ、けっこう衝撃的なお話でした。ここに来る途中にも手ごろな川は見かけましたし、「東京と違って生き物と触れ合うチャンスはいくらでもありそうだなあ」と思っていたので。
ところで、こうして触られると、生き物たちは弱ってしまうこともあります。触れる展示の実現には、内部でもかなり議論があったそうです。職員の皆さんが話し合い、みんなで悩み抜いた結果、実施に踏み切った…とのこと。子どもたちだけでなく、生き物たちにも愛情の目を向けるがゆえのお悩みですよね。
このあたりまで来ると、もう子どもたちの様子を眺めているだけで楽しくて仕方がありません。こんなに大勢の子どもたちがみんなで夢中になっている姿って、そうは見る機会がありませんからね。もちろん、周囲で見守っている大人も、みんな笑顔。私も嬉しくなりました。
最後に、この写真を。我ながら「こちらの館の展示姿勢を象徴する1枚が撮れたかな」と思いました。この子の目の前には、大きいものでは1メートル超、悠然と泳ぐ鯉の雄姿。
声をあげるでもなく、動き回るでもなく、もっと近寄るでもなく。ベストポジションに陣取って、ただフリーズしたように立ち尽くしながら見惚れている姿が印象的でした。「将来、魚類学者を目指すかも知れないな」と思ったり。
さて、いかがでしたでしょうか。冒頭でご紹介した通り、こちらにはイルカもジンベエザメもいません。でも、子どもたちの大歓声で館をいっぱいにする展示が、確かにありました。
その秘密は、徹底した「子ども目線」。知恵と、優しさと、愛情です。
最後に、この日のこぼれ話を、ひとつ。
この日の午後に訪れた松江歴史館で、またシラウオと出会うチャンスに恵まれました。中央のお膳の右下、「白魚の卵張り」というこの地方の郷土料理だそうです。シラウオの人工採卵が養殖として商業ベースに乗るくらいに成長して、実際に食卓に並ぶ日が楽しみに。もちろんその時には、軍艦巻きやどんぶりでなく「卵張り」でいただくとしましょう。
では、また。
島根県立宍道湖自然館ゴビウス:http://www.gobius.jp/about_shirauonews.html