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わせだマンのよりみち日記

2011.02.28

デジタルアーカイブと『武士の家計簿』

先日、取引銀行の「若手経営者会議」とやらに参加してきました。その日の私は、「若手」と言われることに強烈な違和感を覚えつつ、「経営者会議」というたいそうなネーミングにビビりつつ、緊張のあまり30分も前に会場入りしたくせに、喫茶店で時間調整してちょっと遅れてしまうという、ぎこちなさ満点の状態でした。

日ごろ私は、博物館関係のイベントや学会には出席しています。どちらかと言うと昼の部よりは夜の部、懇親会が目当て(・・・ではありません!あくまで研修が主)で、多くの学芸員の方々と名刺交換させていただき、本音トークをお聞きするのが楽しくて、そうした会にはよく出没するので、お会いした方も多いと思います。しかしながら、「経営者会議」なるものにはこれまで縁がなく、立派な社長様方にお会いしても何をしゃべっていいやら。気後れするなあ、と思いながら会場に向かいました。

で、どうなることやらとの思いで参加した会議でしたが、最近の銀行は、粋なことをしますね。前半はなんと、映画鑑賞でした。経営談義なんて出来ないなあと思っていた私は、これで気持ちの半分は楽になりました。そこで上映されたのが、『武士の家計簿』という映画だったのです。素晴らしい映画でした。なんか、すごく得した気分です。

江戸末期の武士の困窮ぶりをコミカルに描きつつ、少し目頭が熱くなるようなシーンもあります。派手なアクションやインパクトのあるストーリーはないけれど、映画の世界に知らず知らず入りこんでしまいました。こういうのを、いい映画というのでしょうね。主人公は「御算用者」、今でいう経理社員として、代々加賀藩に勤める武士。元銀行員で出向先で経理担当の経験のある私は興味津津。主人公は経理担当者として非常に優秀なのですが、家来を雇ったり江戸詰めがあったりと何かと物入りな当時の武士の暮らしにより、家計が火の車、借金漬けとなっていることを知り、世間体を気にしない徹底した倹約で借金を返済していくという話です。

銀行から運転資金を借りている立場で、その銀行から「借金返済物語」を見せられるのは複雑だなあ、隣に座っている社長は、無借金経営なのだろうか・・・などと思いを巡らせながらエンドロールを眺めていると、おおおっ!と思わず身を乗り出してしまいました。エンドロールの背景に出てきたのは、主人公がつけていた「入払帳」。要するに、古文書が出てきたのです。

スクリーンに古文書が出てきて身を乗り出したのは会場ではきっと私だけ。でも、学芸員の皆さまなら、気持ちはわかっていただけますよね。これが出てきた、保存されていたから、この映画ができたのだ。日ごろ、歴史や文化にかかわる資料の保存管理の重要性を(学芸員のみなさまとともに財政当局に)訴えている私は、会場で声を大にして言いたくなりました。

第二部の懇親会を終え、書店に直行。映画の原作本を早速購入しました。その前書きを読んでまたビックリ。この「入払帳」は、神保町の古書店で見つけたものだそうです。古文書販売目録のなかに「金沢藩楮山家文書 入払帳 給禄証書 明治期書状他 天保~明治 一函 15万円」と記載してあり、大急ぎで購入したとのこと。こんなに貴重な歴史資料が、古書店で売買されているとは。恥ずかしながら、そんなことは全く知りませんでした。しかし、それでよいのでしょうか。

この作者に見つけられなかったら、この文書類は捨てられていたかもしれません。そうしたらこの映画は作られることはなかった。この映画に限らず、毎年話題を呼ぶ大河ドラマも、歴史小説も、昔の資料が残っていたからこそ存在するものです。作家や制作関係者が調べたいときに「それ」があることが何より大切。まさに、デジタルアーカイブが簡単にできる環境を整えなければならないのだ。家から昔の文書らしきものが出てきたぞ、と地元の資料館に持ち込んだら、預かってくれて写真撮影かスキャニングしてデジタルデータにして、解説を付けてインターネットで公開してくれる。そういう環境を実現せねば。混迷の時代だからこそ、大切なのは先人の苦労に学ぶこと。古文書の発見から、このような示唆に富む映画が出来上がるのですから、デジタルアーカイブが普及すれば、「国民総温故知新」に近づくわけですね。

ほんの数時間前には、イベントの名前にビビっていたくせに、ずいぶんな大風呂敷になってしまいました。これも映画の魅力、ということでご容赦いただけましたら幸いでございます(なぜか低姿勢)。素晴らしい映画を見せて下さった銀行の皆さま、制作会社の皆さま、ありがとうございました。

Written by U.