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わせだマンのよりみち日記

2019.09.30

大災害の向こうに見える、人と火山の「共生」の歴史 ~雲仙岳災害記念館見学記

1990年11月に発生した雲仙普賢岳の噴火。大きな被害を出したあの衝撃的な光景は、忘れられない方も多いでしょう。では、あの大災害が「いつ落ち着いたのか」についてはご存じでしょうか。噴火活動の終息宣言が出されたのは、1996年6月のこと。何と5年以上の長きにわたる災害であった…という事実を、私は初めて知りました。

その前年にあたる1995年は、1月に阪神・淡路大震災が発生し、同じ年の3月に地下鉄サリン事件が発生しています。いずれも日本の災害史・事件史に残る悲劇でしたが、でも、その頃にはまだ島原半島では多くの方々が「被災者」のままだったんですよね。今回の雲仙岳災害記念館の見学では、自分がいかに無知であったかを思い知りました。

展示室に入ったタイミングで、ちょうど「平成大噴火シアター」の上映開始のアナウンスが聴こえました。これはぜひ観なくては…と、厚かましくも最前列に陣取ったのですが、その映像に驚きました。大スクリーンで見る火砕流、土石流の光景は、思わず身構えてしまうほどの迫力。災害の状況を撮影したものではなく、ドラマティックに再現した映像であるがゆえに、感情移入して恐怖が倍増という感じでした。

日々の生活の中で、かすかに姿を現す噴火の兆候に、何か尋常ではない空気を察する人々の様子。恐ろしいまでの大噴火と、なす術もなく押し流されていく家々。とにかく、言葉がありません。

人間の無力さを改めて見せつけられる思いでしたが、自然の脅威が圧倒的であるからこそ、平時の自然の美しさ、そして災害の終息から復興に向けて力強く歩む島原半島に住むの人々の力強さには心を打たれます。むしろ勇気を与えてくれるこの映像は、皆様にも強くお勧めしたいと思います。


 

一部の映像を撮影させていただきました。こちらもぜひご覧ください。

 

 

さて、続いては展示の様子です。こちらは、火砕流で被災した自転車やテレビカメラなど。痛々しい姿ですが、映像を見た後に観るとリアリティが胸に迫ってきます。あの映像で再現された噴火は、実際に起こったことなのだ…と。

写真左側、布が吊るされているように見えますね。実はこれ、火砕流を受けたガードレール。いかに凄まじい威力で街を襲ったのかがご想像いただけるかと思います…。

「この日に何があったか」が短時間で理解できるように工夫された展示。シアターで見たドラマのシーンと符合するものもあり、胸が詰まります。

ここまでの展示だけでも、災害の記憶を記録として残すというミュージアムの意義を十分に果たすもの。でも、こちらの館は、もうひとつ大きなコンセプトがあります。それは「火山を学ぶ」ための展示です。

「火山クイズ」のにチャレンジできる端末がズラリと並ぶ空間。人の姿がありませんが、これはたまたま、ほかのエリアに一斉に移動したタイミングで写真撮影ができたから。当日は、平日にも関わらず、たくさんの子どもたちで賑わっていました。

子どもたちが移動したのをいいことに、ちょっと試したゲームにそのまま熱中。復興にあたって開発された重機シミュレーターのような内容でした。遠隔操作が意外と難しいのですが、やしばらくすると慣れてきて、上手に土砂を運べるようになりました。

気が付くと、かなりの時間が経過していました。「もっとうまくなれるのに」と後ろ髪を引かれる思いで、次のコーナーへ。

こちらは、世界にどんな火山があるかを紹介する展示。大きな地球儀もあって、子どもたちが喜びそうな空間です。災害の記録だけでなく、まさに「火山の百科事典」的な施設なので、親子連れで訪れるにも最適ですね。

こうして館内を見て回っていると、不思議な気持ちが湧いてきました。というのも、凄まじい災害の爪痕はとにかく痛ましいばかりで、今後への教訓として学ぶべきと確信するものではあるのですが、その一方で「火山がいかに地域に恵みを運んできたのか」に触れ、自然への敬意に包まれるような気分も同時に味わったのです。

火山への知識を高めたり、日々の備え方を学んだりすることは、極めて重要。しかし、館内の展示からは、ただひたすら「克服すべきもの」と捉えているという印象は受けませんでした。人間と対極の位置に置くのではなく、長く共に暮らし、怖れを抱きながらも共生し続けてきたからこそ行き着く、ポジティブな願い。この地の方々の火山への複雑な想いが伝わってくるような気がしました。

展示をじっくり拝見した後、休憩がてら少し調べてみました。昭和40年には4万5千人近くだった島原市の人口は、平成17年に3万人を切るところまでまで減少しますが、平成27年には4万5千人と戻ってきているみたいです(※)。厳しい自然と真摯に向き合い、その恵みと脅威を理解した上で、土地と暮らしを守っていく。それは、これからの私たちに求められている暮らし方そのものなのではないでしょうか。

そんなことを考えながら、展望ラウンジへ。あの映像とは逆にやさしげな表情で街を見守る山々を眺めていると、子どもたちがバスに向かう姿が目に入りました。

今日一日が穏やかであることに、まずは感謝。そんな気持ちにさせてくれる、素敵なミュージアムでした。

 


※ 島原市の人口推移はこちらのサイトを参照しました。
http://demography.blog.fc2.com/blog-entry-4738.html
平成18年に有明町との合併がありますので、全体としては緩やかに減少、近年持ち直してきているそうです。

がまだすドーム 雲仙岳災害記念館
https://www.udmh.or.jp/