- vol.219取材年月:2024年10月和歌山県立博物館
文化財とその情報を守る上で、人の力では困難な部分を
支えてくれるのがデータベースだと思います。学芸員 竹中 康彦 さん
学芸員 島田 和 さん
-最近I.B.MUSEUM SaaSをご導入いただいたばかりですが、実は2000年代のはじめにオンプレミス型のI.B.MUSEUMをご採用いただきました。
竹中さん:お懐かしいですね。あの時は、特に寄託まわりの業務や預り証書の更新などを管理するためにデータベースを構築しました。入力が想像以上に大変で、緊急雇用対策事業でアルバイトの方にお願いしたんですよ。
-ただ、導入後何年か経って、I.B.MUSEUM から離れておられたとか。
竹中さん:開発していただいた帳票の書式が変わって、業務に合わなくなってしまって。そのうちにOSの変更にもついていくことができなくなり、Excel やFileMakerにデータを移しました。
-当時は、帳票の書式変更は館内では対応できない仕様でした。弊社のサポートも不十分で、申し訳ございませんでした。
竹中さん:いえいえ。ExcelやFileMakerで管理を継続できたのもI.B.MUSEUM 時代のデータがあったからこそ、ですから。
-当時としては、かなり先進的なお取り組みでしたよね。
竹中さん:言われてみれば、ホームページを立ち上げたのも県の組織の中では早い方でしたね。
島田さん:私は当時を知りませんが、今回のクラウドシステムの導入ではデジタルデータがすでにある状態からスタートできました。他館でよく耳にする「デジタル化する苦労」がなかったのは、その頃にデータを整えてくださったおかげです。
-I.B.MUSEUM からExcel やFileMakerへ、そしてI.B.MUSEUM SaaSへと、その時代その時代でメディアを変えてデータを継いでこられたわけですね。先人のご苦労がしっかり実を結び、さらに次の世代にバトンを受け渡すという構図は、本当に素晴らしいです。
-今回のご導入で直接のきっかけとなったのは、一昨年の「和歌山ミュージアムコレクション」の構築だったそうですね。データの移行については問題ありませんでしたか?
島田さん:はい、大丈夫でした。特に資料をご寄託いただいた際に発行する預り証書の番号が重要となりますので、見失わないように細心の注意を払いながら作業に臨みました。
-預かり証書の番号、ですか。
島田さん:ええ。当館では書庫にご寄託資料の預り証書を保管しておりまして、私たちにとってはその番号が実物に辿り着ける唯一の手がかりとなるんです。竹中さんなら実物の場所をかなり記憶されているのですが…。
竹中さん:私の記憶が頼りだと、忘れたら大変なことになります(笑)。
-考えただけでもぞっとします(笑)。
島田さん:その番号も、実は新旧の2種類はあるんです。昔はお預かりしたタイミングごとに採番されていたのですが、途中で番号体系の変更がありまして。
-つまり、どちらもデータベースが確実に引き継がなければならないわけですね。
島田さん:そうなんです。今回はせっかくデータベースに移行しましたので、「返却済み」を記録するチェックボックスを用意しようと思っています。いままでは番号の先頭に「×」印を付けて対処していたのですが。
-チェックボックスなら「いまお預かりしている資料」のリストもすぐ取り出せるようなりますね。それにしても寄託関係の更新業務は大変そうですが、どのくらいの頻度で発生するのですか?
竹中さん:2年に1回ですね。所有者の皆様との信頼関係が大切ですから、間違いは許されません。
島田さん:たとえば仏像なら、大きなお寺さんだけではなく、小さな共同体の所蔵品であることも多いんです。もう住職が不在で、地域の皆さんで月1回お掃除しているようなお堂で、平安時代のものが見つかったりして。
-そんなことがあるんですか!
島田さん:はい、時々あります。このような場合は、地区の区長さんに寄託更新の手続きをお願いすることになるのですが、時間が経つと区長さんが交代されるので「送り先」も変更しなければならなくて。
-各地の区長さんの任期やご住所まで一元管理されるとは…。まさにI.B.MUSEUMの人物情報管理の出番という感じですが、そもそもそうした情報はどう管理しているのですか?
島田さん:日頃から展覧会のチラシなどをお送りしています。普通にお受け取りいただけたかどうかで、連絡先データのメンテナンスの情報源にもなるんです。
-交代していれば、その旨を知らせるご連絡が来る、と…。いや、県立館の皆さんがそこまで把握しておられるとは。
竹中さん:すべてを私たちが把握できるわけではありませんけどね。和歌山県は市町村に専従の学芸員が配置されたミュージアムが少ないこともあって、県立博物館が市町村立博物館に近い役割を果たすこともあるということです。
島田さん:市町村の担当者会議などでいろいろと教わっているんですよ。現地に行く時には、市町村の担当者の方が立ち会ってくださいますし。和歌山ミュージアムコレクションが情報共有にも役立つといいなと思っています。
-まさに垣根を越えて地域文化を守っておられるのですね。
島田さん:はい。たとえば1件につき何百点も資料がある指定品の修理事業などにおいては、所蔵状況の変遷など、市町の担当の方とも確認しながら進めます。仕事を協力して行う上でも、情報の共有は本当に大切なんです。
-I.B.MUSEUM SaaSの限定公開機能なども、円滑な情報共有のお役に立てばよいのですが。
-弊社担当からも聞いているんですが、島田さんはI.B.MUSEUM SaaSに相当お詳しいようですね。こちらにはいつ頃ご着任になったのですか?
島田さん:2022年の4月、ちょうど和歌山ミュージアムコレクションのプロポーザルの仕様が固まりつつあった頃でした。まだ日は浅いのですが、慶応義塾ミュージアム・コモンズで少し触れていましたので、着任前から馴染みはあったんです。
-なるほど、道理でお詳しいはずです。初めてご覧になった時はどんな印象を持たれましたか?
島田さん:見た目は「少し古いかな」と(笑)。でも、機能には違和感がなくて、すぐに使い始めることができました。
-すみません、2022年当時でも10年以上前のシステムでして…。でも、最近のリニューアルで、かなりモダンになりました。
島田さん:はい、もう大丈夫ですね(笑)。
-先ほどのお話にもつながりますが、諸先輩が蓄積してこられたデータをしっかり活かしておられて、素晴らしいと思います。今後の課題などは?
島田さん:寄託更新業務の預り証書発行で、帳票機能を使いたいですね。サポート担当の方にも相談しているのですが、自動的にリンクするデータとそうでないデータをしっかり理解して、リンクしないものは運用でカバーしながら業務の流れを作っていきたいと考えています。
-単なる目録データベースではなく業務効率化へと昇華させるとなると、いろいろな工夫が必要になりますよね。
竹中さん:文化財とその情報を守る上で、人の力だけでは正確な維持が困難な部分をデータベースで補っていければと考えています。
-ここまで確実に実践してこられただけに、お言葉にも重みを感じます。私たちも今以上にお役に立てるように努力して参ります。本日はありがとうございました。
- Museum Profile
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和歌山県立博物館
和歌山城の天守閣を望む緑豊かなエリアに佇む博物館。収蔵品は彫刻、絵画、工芸品や歴史資料など多岐にわたり、近世文人画や紀州三大窯で作られた陶磁器、熊野速玉大社の古神宝類や紀州東照宮の宝物、江戸時代に活躍した絵師・長澤蘆雪の作品などが特に有名です。地域の歴史を時代順に追う見応え十分な常設展のほか、特別展や企画展、イベントも多数。隣接する(地下でつながる)和歌山県立近代美術館(いずれも黒川紀章設計)とともに一日たっぷり楽しめます。
〒640-8137 和歌山市吹上1-4-14
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