2021.08.03
都会の真ん中で、静かに触れる「日本の心」 ~國學院大學博物館
#現地訪問「当館は、この先生が在学中に作った施設なんですよ」
本日お邪魔したのは、90年以上の歴史を誇る國學院大學博物館。案内してくださった学芸員のお話を一度はすんなりお聞きしつつも、しばらくして「ん?」と気付きました。…はい? 在学中?? 現役の学生さんが設立されたのですか???
「この先生」とは、國學院大學博物館の館祖、樋口清之氏のこと。明治42年(1909年)、奈良県桜井市のご出身なのですが、何と中学時代から県内各地の考古遺物を収集していらしたとか。そのコレクションは同学に在学中の昭和3年(1928年)時点ですでに約4000点にも及んでおり、それを一括で寄贈なさったというのです。これを機に博物館創設を働きかけて支持者を増やし、同館の前身のひとつとなる「考古学標本室」を創設したのだとか。
すごい学生さんがいたものだなあ…と感心しながら、ゆっくり歩く展示室。要所要所で解説いただきながら巡回したのですが、まず印象深かったのがこちらの展示です。
奈良県の三輪山の山麓にある「山ノ神遺跡」から発見された磐座(いわくら)の模型。古くから神々がこもる山と言い伝えられてきた三輪山ですが、中でも「足を踏み入れてはならない」とされる禁足地からみつかったものとか。実物は5~6世紀ごろのものなのですが、模型は館内のランドマークと化しています。写真の角度から見てこれより左が古代展示の考古ゾーン、右がより新しい神道ゾーン。まさに膨大な数の展示を鑑賞する上での目印なのですね。
では、まず考古エリアをご紹介しましょう。こちらでは、有名な火焔型土器に始まり、土偶、銅鐸や石枕など、大変充実した資料を観ることができます。
ご案内いただくうちに、これまで訪れた考古系博物館との大きな違いに気づきました。考古系博物館の多くは公立の施設ですので、展示は自然に地元の出土資料が中心となります。それに対し、ここには全国各地の資料がズラリ。國學院大學の先生方が全国を調査してこられた成果、まさに大学ならではの展示であると同時に、同館が学内から協力を得られている「信頼の証」なのではないかと。学芸員に訊ねると、実際に、年6~7回開催される企画展も先生方との共同作業で、「みんなで作る」雰囲気とか。回数にも驚きましたが、互いに信頼し合い、協力し合っているからこそ機能しているのでしょう。
次の写真のポイントは、手前の大きな弥生土器。これは甕棺(かめかん)といって、亡くなった人をおさめるための甕だそうです。サイズからすると成人なら身体を折らないと入らないように思いますが、ふたつの甕をくっつけて亡骸をまっすぐにして入れることもあったとか。
一方の神道ゾーンも極めて充実。まずは大嘗祭を学ぼうということで、大嘗宮の模型を拝見しました。正殿(悠紀殿(ゆきでん)・主基殿(すきでん))は伊勢から神様を一時的にお呼びする場所ですが、すぐにお帰りになるため、一晩で取り壊すのが習わしだそうです(伊勢に向かって拝むため、など諸説アリ)。
大嘗祭とは、即位した天皇が、神饌(しんせん=神の食事)を初めて天照大神に供え、自らも召し上がる祭祀です。具体的に何を召し上がったかは、太古の昔から記憶にも新しい令和元年の大嘗祭まで、一般には明らかにされていません。そこで、こちらでは、文献の検証をもとに作られたお膳が展示されていました。7世紀から現在まで続いているこの祭祀だけでも、日本の歴史の凄さに感動を覚えます。
さて、この神道まわりの展示が充実していることには、理由があります。國學院大學は、昭和21年まで皇典講究所という古典の研究・教育と神職養成を目的とした機関が運営母体だったそうです。もちろん校史も奥が深く、専用の展示ゾーンには皇典講究所初代総裁の有栖川宮幟仁親王にまつわる文書や工芸品など貴重な資料が多数。見応えたっぷりでした。
学芸員に解説していただきながらの見学は、驚きの連続。とにかく楽しいミュージアム体験でしたが、オフィスに戻ってメモを見るに、出来事や人物を年表とともに教科書や参考書との違いを今さらながら痛感しました。というのも、同館の展示には、そのひとつひとつに先人の想いや願いが宿っているように感じたのです。
思いますに、それらの帰結する先が、館内の随所に息づく「祈り」なのでしょう。祭祀が生活の中で大きな存在だった時代は、祈念と感謝はあとさきで対のような感情だったはず。何かを願い、それが叶えば、当然お礼を述べに舞い戻りますからね。一方、そうした仕組みが希薄になった現代社会を生きる私は、そもそも願いを申し述べる機会自体が多くありません。それどころか若い頃は、ことあるごとに神頼みに走る割に、物事がうまく運ぶと「俺って才能あるかも」などと大いに錯覚もしたものです。自分で自分を褒めることも大切だとは思うのですが、こうしてご先祖の足跡に触れると、もう少し謙虚であるべきかなあ…と、もの言わぬ資料と相対しながら心の中で呟きました。
ご説明くださった学芸員の言葉の中で、何度か「神道考古学」という単語が登場しました。これをきちんと勉強すれば、漠然と感じたことを言語化できるかも。ならば、まずは樋口先生の名著『梅干しと日本刀』を読むことから始めようかな…スマホをスリープから起こした瞬間、典型的な現代人の行動様式となっていることを自覚し、苦笑いするのでした。
取材協力
國學院大學博物館 学芸員 佐々木 理良 様
http://museum.kokugakuin.ac.jp/