2021.04.07
5百年と2万年、時空を超えるひとときの旅 〜沖縄県立博物館・美術館
#現地訪問ミュージアムと名が付く施設なら全国どこにでもお邪魔するのが弊社のポリシー。とは言っても、東京からの距離によっては「では、明日うかがいます」とは申し上げにくかったりもします。次に訪問できるのは1年後…ということもありますので。
たとえば、ここ沖縄。せっかく足を運ぶことができたのですから、できれば館のご自慢である充実の展示もくまなく拝見したいところ。その一方では、やはり帰りの時間も気になります。
さあ、困った。そんな時は、学芸員にお知恵を拝借するのが一番です。
「申し訳ありません、時間がありません。1点だけ展示物を拝見したいのですが、どれがいいですかね?」
何とも申し訳ない気持ちで訊ねたところ、しばし唸った学芸員は、悪戯っぽくこう答えてくれました。「もし可能なら、2点ご覧になりませんか?」
まずは『万国津梁の鐘』から。1458年に琉球王国の尚泰久王が鋳造させた釣鐘で、かつては首里城の正殿にかけられていたそうです。正面に立ち、有名な銘文の意味に耳を傾けます。曰く、沖縄と日本の関係は歯と唇、沖縄と中国は上あごと下あごのようなもので、どちらとも持ちつ持たれつ助け合っていかなければならない…。
「津梁」とは、海を渡る橋のこと。ふたつの国の間にある琉球は、諸外国に橋をかけるように船を通わせて交易を発展させていたため、当時は異国の宝物が溢れていたとか。長い時間の中で紆余曲折を経たいま、穏やかな空気の館内でふれる金言。この鐘は、毎時0分と30分に音が鳴るのですが、運良く聞けた音色に包まれながら銘文の意味を噛みしめると、より重みをもって胸に迫ります。
もうひとつは、港川人の模型です。沖縄で発見された人骨をもとに復元された2万年以上前の人類の像で、以前は「縄文人の祖先ではないか」ともされていたそうです。ところが、近年の研究で、縄文人よりもオーストラリア先住民やパプワニューギニアの人々などを含むオーストラロメラネシアンに似ているという説が有力に。さらに、骨が発見された場所からは世界最古とされる釣り針が、その周辺からはオオウナギやイラブチャー(アオブダイ)などの骨が見つかり、徐々に「彼ら」の輪郭が定まっていきます。ちなみに、イラブチャーは刺し身が美味と評判ですので、なかなかグルメな生活ぶりだったのかもしれません。
面白いのは、新しい説が発表される前に作られた模型も並んで展示されていること。古い方はヤンバルクイナを、新しい方はウナギとカニを手にしていますので、さらに新たな発見があれば「3世代」になるのかもしれませんね。
15世紀の鐘に刻まれた言葉と、2万年前の祖先の姿。ふたつの展示を見ただけでも、知的好奇心は大満足。東京から沖縄へ、現代から古代へ。短い時間でも時空を超えた「旅」を満喫でき、充実したミュージアム体験となりました。
ほんのり夕日に染まったエキゾチックな建物を振り返ると、子どもや孫の世代へと受け継がれていく様子を想像せずにはいられません。次回はもっと間隔を縮めて再訪できること願いつつ、ゆいレールの駅へと向かいました。
取材協力:沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員 外間一先様