- vol.157取材年月:2019年12月草津宿街道交流館・史跡草津宿本陣
館のスタッフでベストな情報管理を考えながら、
市の、そして県のデータベースへと育てていきたいです。主任(学芸員) 冨田 由布子 さん
-こちらでは、データベースシステムの導入の前に、まず展示ガイドアプリ「ポケット学芸員」のご利用から始められましたね。では、そのいきさつからお聞かせください。
冨田さん:史跡草津宿本陣での案内を充実させたいという話が持ち上がったんです。江戸時代の建物ですから、歴史的背景まで知った方がより深くお楽しみいただけるはず…ということで、おもてなしを強化しよう、と。
-展示を理解するとしないとでは、見学時の満足感も大きな差が出ますよね。
冨田さん:でも、実際にはなかなか難しくて。学芸員がガイドをすることもありますが、団体でお越しの皆様のご案内だけでも精いっぱいというところですし。
-個人でご覧になる方も多そうですね。
冨田さん:ええ、全員に対応するのは無理ですから。かと言って、解説用のパネルをあちこちに置くと、雰囲気を損ねてしまうじゃないですか。そこで、ITを上手に使えないかという話になって。VRやARについても検討したんですよ。
-最新技術を採り入れる施設も増えてきましたね。音声中心のガイドよりもインパクトがありますが、そちらの採用が見送られた理由は?
冨田さん:最新の技術は新鮮で楽しいのですが、どんどん新しいものが出てきますよね。導入直後はともかく、長く鮮度を保ち続けるのは難しいのではないか、と。
-仰る通りですね。その時点では最新技術だったのに、3年後にはすでに時代遅れになってしまった…というお話は、頻繁に耳にします。
冨田さん:一度疑問が生じると、なかなか踏み切れなくて。どうしようか…と考えている時に、御社からポケット学芸員の案内が届いたんです。
-なるほど、タイムリーだったわけですね。
冨田さん:はい、「運命的な出会い」だと思いました(笑)。
-それは嬉しいですね。「その時は『これは運命だ』とときめいたのに、実は…」という展開にならないとよいのですが(笑)。
-さて、そのポケット学芸員なのですが、どんな感じで活用していただいていますか?
冨田さん:普通の解説文のほかには、草津宿街道交流館で郷土玩具の企画展を実施した時に、動画を使っての解説サービスを行いました。おかげさまで、ご好評をいただきましたよ。
-ほう? どんな動画ですか?
冨田さん:展示している玩具を、私たちが動かしている様子を撮影したものです。玩具と言っても展示資料で、ご来館の皆様には遊ぶどころか手で触れていただくこともできませんので。ポケット学芸員はYouTubeにアップした動画を呼び出せますので、その機能を使いました。
-それは理想的な活用法ですね。「その展示資料はどう使うものなのか」を視覚的にご覧いただく動画の配信は、まさにポケット学芸員が想定している活用例のひとつでもあります。
冨田さん:それは嬉しいです。この時は、親子でスマホを覗き込む方が目立ちましたね。小さなお子様たちにも分かりやすかったようです。
-多言語での配信もされていますよね。
冨田さん:ええ。英語と中国語、韓国語のガイドを提供しています。史跡草津宿本陣ではタブレットも貸し出しているのですが、こちらはまだ周知が追いついていないようで。
-活用促進については、旅行会社で団体ツアーを担当しておられるガイドさんが案内コースに組み込んでくださったという事例もありますよ。弊社でも、マルチリンガル版のアプリ解説リーフレットを用意しておりますので、お役に立つかもしれません。
冨田さん:なるほど、リーフレットを配布するわけですね。
-ぜひご活用ください。ところで、ポケット学芸員を導入いただいた後で、資料のデータベースも公開されましたね。
冨田さん:はい。街道交流館では今年、開館20周年を迎えたタイミングで「大草津展」と題した全3期の展示を行っているのですが、それに伴うWeb展示という位置づけで立ち上げました。現在は「歴史編」「民俗編」がご覧いただける状態で、今後は「考古編」を公開する予定もあります。
-それは素晴らしいですね。絵に描いたような発展ぶりですが、システムをお使いになってのご感想は?
冨田さん:何と言っても実用的ですよね。「現場のことを考えて作ってくださったんだなあ」と実感します。
-それは嬉しいお言葉です…。職員の皆様にもお使いいただいていますか?
冨田さん:まだこれからという段階ですね。今は、各分野の担当者がそれぞれExcelでのリストを作っています。
-データ統合への過渡期を迎えつつあるわけですね。
冨田さん:別々に作られたExcelを一元管理できると便利ですので、みんなで相談しながら、ベストな管理方法を考えていきたいですね。
-Excelで整理されているのであれば一括登録も可能ですから、データベース化は業務効率の改善に貢献できると思います。でも、館個別の事情はあるものですし、人によって「使いやすさ」も異なりますから、一度スタッフの皆様向けに研修会を開いてはいかがでしょうか。
冨田さん:御社にお願いできるのですか? それはありがたいです。
-かしこまりました。では、会社に戻ったら担当者と相談し、ご連絡しますね。
-「アプリの活用から、データの公開へ」という手順は、実に順調ですね。ちょっと驚いたくらいです。
冨田さん:ありがとうございます。でも、普通はプロセスが逆なのでは?
-確かに。逆に言えば、データベースを後から使い始めたのに資料データを整備して公開にたどり着くという流れは、「もうひとつの理想」と言えるものだと思いますよ。
冨田さん:それは嬉しいです。これからも頑張らないと(笑)。
-今後はどんなビジョンを描いておられますか?
冨田さん:草津市には「歴史博物館」と名の付く施設がありませんので、公開データを増やして「市のデジタルアーカイブ」と名乗れるところまで発展させられればいいなあ…と。
-それは素晴らしいですね!
冨田さん:個人的なイメージに過ぎないのですが、いずれは滋賀県内の他館と資料データを横断的に検索できるサービスができたらいいな、とか。
-県外の方々へのアピールにもつながりそうです。
冨田さん:草津市の外に出れば、また違った形での「滋賀県」が見えるきっかけになるかもしれません。古い資料は、現在の市町村が成立する前から存在していたわけですから、市町村を横断して検索できる方がむしろ自然な姿のようにも思いますし。現時点では、欲張りな願望でしかないのですが(笑)。
-でも、今後は外部との連携性がクローズアップされるのではないかと思います。別々のデータベースから横断的に情報を拾う仕組みそのものは、さほど難しくないような気もしますし。もちろん、各方面の方々のご協力は必須となりますが。
冨田さん:何だか、夢が膨らみますね(笑)。互いに「琵琶湖を挟んだ向こう側」ではなく、「琵琶湖のまわりの仲間たち」という絆を深めながら、県全体の活力づくりに貢献できたら嬉しいですね。「言うは易く行うは難し」ですので、頑張っていきたいです。
-その夢の実現、弊社もぜひお手伝いしたいと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
- Museum Profile
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草津宿街道交流館・史跡草津宿本陣
滋賀県草津市は、東海道と中山道が分岐・合流する宿場として栄えたまち。草津宿街道交流館は、江戸時代の旅や街道の様子を交えながら、草津の豊かな歴史と文化を体感的に紹介する施設です。そして、大名や公家などが休泊した当時の空気を伝えてくれるのが史跡草津宿本陣。江戸から向かうと「京都まであと1日」にあたる宿場の活気が、ありありと伝わってきます。当時の風情を浮世絵で楽しめることでも人気が高いランドマークです。
ホームページ : https://www.city.kusatsu.shiga.jp/kusatsujuku/index.html
草津市立草津宿街道交流館
〒525-0034 滋賀県草津市草津三丁目10番4号
電話 077-567-0030
史跡草津宿本陣
〒525-0034 滋賀県草津市草津一丁目2番8号
電話 077-561-6636