ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

 

「手作り」という言葉の意味を辞書で調べると、「機械を使わないで、手で作ること。店で買わないで、自分の手で作ること」とあります(デジタル大辞泉の解説より)。手作り品は必然的に「1点もの」となりますので、博物館とはとても親和性が高いということになるわけです。

今回訪問した「北広島市エコミュージアムセンター知新の駅」では、来館者・利用者に楽しんでもらおうという気持ちが伝わってくる、さまざまな「手作り」が迎えてくれました。寒い北海道だからこそ人の温かさが心地よい、もてなし上手のミュージアム。今回は、その「手作り」にフォーカスしながら館内の様子をレポートします。

数々の「手作り展示」

こちらは、小学校の校舎を活用した施設です。学校の名残が残る廊下の壁には、長い定規らしきのような目盛りと丸いカードが貼ってあります。実は、カードは手でめくることが可能。約46億年前の誕生から人類の誕生まで、地球上で起きた主な出来事が書かれていました。目盛りは年数を示しているのです。

定規の目盛り上では、人類(猿人)の誕生はほとんど最後に近い位置。ほんの少しの長さしかないため、地球の歴史の中で人類がいかに「新参者」であるかが感覚的に分かります。これは、オープン当時のスタッフの方が、子どもたちに分かりやすく伝えるようと考案されたものだとか。何の変哲もない廊下が丸ごと体感型の教材に…素晴らしいアイデアですね。

写真に写っているトンボの標本は、地元で採集されたものだそうです。「私も採ったんですよ」と胸を張って説明してくださったのは、歴史担当の若い女性の学芸員。「昆虫標本は自然史担当の学芸員の仕事」、そして「若い女性は昆虫が苦手」。こんなふたつの思い込みが一気に崩れてしまいました。

ベテランの男性学芸員が同行してくれたとのことですが、虫取りの網とカゴを持った大人たちのお出かけシーンを想像して、心もポカポカに。ご自分の手で集めた昆虫標本であれば、来館した子どもたちへの説明にも熱が入るのでしょう。まさに「手作り」ならではです。

最近のミュージアムでは、昭和の暮らしの展示をよく見かけます。こちらでは、モノを時系列で並べた展示が興味深いものでした。電卓、あるいはアイロンがどう進化してきたのかがひと目で分かりますよね。シンプルだけど効果的な展示アイデア…まさに「一本取られた」という気分になりました。

企画展も手作りの工夫

さて、この日は「北海道150年事業企画展 北広島のお米から北海道のお米へ」という企画展が開催されていました。こちらでも、随所に「手作り」の味が見られました。

たとえば、この展示。明治6年、寒冷地米の「赤毛」を栽培することに成功した中山久蔵の偉業を中心に、コメ作りの歴史を学ぶことができます。「ゆめぴりか」「ななつぼし」など、地元・北海道のブランド米の知識にも触れられるのですが、ここにもアイデアが。

この家系図のようなチャートは、コメの品種改良の歴史を表しています。その横に、中山久蔵がもたらした「赤毛」と現在のブランド米「ゆめぴりか」の稲が展示されているのです。品種改良が、まさしく「目で分かる」わけですね。

中山久蔵氏は、稲作を始める開拓者に種もみを無償で配布したとのこと。これがきっかけとなり、北海道全域にコメ作りが広がって、現在のおいしいブランド米の成功につながっているわけです。展示ではその過程を学ぶことができるのですが、に加えて「北海道米ものがたり」という4ページのマンガも用意されていました。北海道におけるコメ作りの苦闘と成果が、子どもにも楽しく理解できるように描かれています。

最後に「拝啓 中山久蔵様」と書かれたボードがあり、来館者がメッセージを紙に書いて貼れるようになっていました。今の私たちの幸せな暮らしは、先人の苦労のおかげ。学びながら感謝の気持ちを自然に育む工夫満載の展示のラストに相応しい、素敵な仕掛けです。

「お返事は返せません」というコメントが、またいいですよね。もちろん、これも「手作り」でした。

利用者が参加する手作り

実に参考になる展示で満足…と思いきや、実はここからがハイライトです。

写真のキタヒロシマカイギュウの骨格模型をご覧ください。こちらは、何と学芸員と北広島の子どもたちが共同で制作したものとのこと。展示を前に説明をお聞きして、本当に驚きました。「だって、形状といい、表面の質感といい、こんなものを素人が作れるものなの?」と半信半疑の顔をしていると…。

バックヤードに通してくださいました。そこには、ゾウの頭ほどある「作品」が。バイソンでしょうか、頭蓋骨と角の部分です。こうしてバックヤードに置かれているところを見ると、作っているシーンが思い浮かびますね。しかも、発泡スチロールのようにとても軽い素材を使っているとお聞きして、また驚いてしまいました。

 

クライマックスは、このマンモスの親子です。2016年4月中旬から7月上旬まで、約3か月の制作期間をかけて作ったという超大作。市内からのべ900人以上の小中高生及び大学生が集まり、じっくりと制作したのだそうです。

材質を詳しくお聞きすると、まず身体はホームセンターなどで手軽に入手できるスタイロフォームという安い建材を使ったとのこと。体毛はシュロという樹木の皮と、マンモス色(?)に染めた麻糸でできているそうです。素材まで「手作り」感が満点なわけですね。

親マンモスは、小中学生を中心に大学生がリーダー的な立場で入り、最後に学芸員が仕上げを担当。子マンモスは、市内の小学校8校と中学校2校のリレー制作とのことでした。ご覧ください、この牙の質感。これだけリアルなマンモスを作った子どもたちの達成感は、どれほど大きなものだったのでしょう。弾ける笑顔を想像するだけで、こちらまで嬉しくなりますよね。

完成したマンモスは、かかわった小学校を順番に回り、北海道博物館に3か月にわたり間展示されたそうです。これには、子どもたちも最高に盛り上がったでしょうね! 家族と一緒に北海道博物館を訪れた子は、きっと胸を張って説明したことでしょう。

利用者が制作に深く関わり、自分たちの手で展示物そのものを作り上げる。それは、博物館としては究極の「手作り」と言ってよいのではないでしょうか。こうしたプロセスで完成するのは、展示物だけではありません。貴重な制作体験と楽しい思い出、それに博物館ファンも作り出したに違いありません。

たくさんの子どもたちの思いが詰まった「手作り」の親子マンモスは、このミュージアムの象徴的な存在になりました。寒い地域の温かな展示は、制作に参加した子どもたち本人を含めて、この地の人々を静かに見守っています。

 


北広島市エコミュージアムセンター 知新の駅
http://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/kyoiku/category/790.html

北海道150年事業企画展 北広島のお米から北海道のお米へ
http://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/kyoiku/detail/00130808.html

北広島マンモス大復活プロジェクト
http://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/kyoiku/detail/00126535.html