2012.11.26
震災と文化財にまつわる1週間
陸前高田被災資料デジタル化プロジェクト(http://tsunami-311.org/)をお手伝いしている関係で、先日、岩手県の陸前高田市を訪ねました。すでに何度か足を運んでおりますが、今回の訪問では、壊滅的な被害を受けた博物館が取り壊され、更地になっている姿を目の当たりにしました。
地元の方々にとって、博物館の建物がなくなってしまったことは、お寂しい限りでしょう。胸に迫る風景を噛みしめつつも、危険な状態の建物が1年半も野ざらしになっていたという事実に、「復興の遅れ」を実感せずにはいられませんでした。
その3日後は、新潟県長岡市を訪れました。弊社がシステム構築をお手伝いした『「語り継ぐもの」-中越地震データベース-』(http://kataritsugumono.jp/ )について、使い心地などをお尋ねするためです。
このデータベースは、地元の皆様の体験談を蓄積することを目的としています。防災のためのインフラ整備はもちろん大切ですが、一方では先人の知恵を忠実に守っていたことで津波の被害を逃れた集落があったように、受け継がれた叡智が人を守ってくださることもあります。辛いご体験だからこそ肉声として残し、次の世代へと語り継いでいくことができれば、災害に備える上での重要な対策のひとつとなるでしょう。
翌日の訪問先は、新潟大学。シンポジウム「新潟県中越地震から東日本大震災へ-被災歴史資料の保全・活用の新しい方法をさぐる-」に出席し、各地で行われている文化財救済の活動についてのお話を伺ってきました。
会場では、各地で行われている被災した資料の安定化処理や、その後の利活用などの事例などについて拝聴することができ、とても参考になりました。ここでは、印象に残ったお話をひとつご紹介いたします。
東日本大震災で甚大な被害を受けた長野県栄村の、ある農家のエピソードです。棚田が壊滅したことで農業の継続を諦めかけていた若いご夫婦が、震災前に役場の古文書講座でお読みになったというご自身の田んぼの昔話、水路の確保を成し遂げた先人たちの苦労話などを思い出され、「自分の代で農業を途絶えさせるわけにはいかない」と一念発起されたとのこと。その甲斐あって、今では美しい水田を取り戻しておられるそうです。
山村部で若い農家が農業を辞めると、おそらく働き口を求めて都会に出ていくことになり、地域の過疎がさらに進むという結果になっていたかもしれません。その古文書は、農業のバトンを繋げただけでなく、村の生命をも繋げてくれた…と言えるのではないでしょうか。
陸前高田、長岡、栄村。行く先々で「文化を守ろう」「次代へと残そう」と懸命な方々の熱意に触れることができ、大きな勇気をいただいた1週間。「文化を守ることは、その土地を守ること、そして国を守ることに直結しているのだ」との思いをさらに強めることにできました。
文化の守護に仕事として携わる幸せと責任を感じ、決意を新たに帰路に就きました。